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第9章 守護という名の方程式

第52話 〜夷狄(いてき)〜

雨がしとしとと降っている。

空に穴があいたような雨ではない。

ただただしとしと降っていた。

夕方である。人の殆どはすでに家に入った後だ。

その降る様子を窓からレプラスは見ていた。紫苑は学校の宿題をしている。

レプラス「静かな雨だな・・・。」

雨が降る中、布を纏った人影が紫苑の家の前を通り過ぎる。

レプラス「ん・?」

人影の歩みが止まる。すると人影の視線はレプラスに向けられた。

だが少し見た後また何もなかったように歩みを再開したのだった。

レプラス「この雨の中・・・なんだ?」



同じ頃ゴウカンは傘をさしながら偶然見かけたカタツムリを観察していた。

・・・ハデスも一緒である。ハデスはしゃがんでカタツムリを見つめる

マスター・・・・・・・・・

に冷たい視線を注ぎながら壁を調べていた。

壁のほこりを払うとそこには真っ赤な血の跡があった。

ハデス「やはりここもか・・・マスター?」

ゴウカンはあいかわらずカタツムリを凝視している。

どこから拾ったか短い木の棒でカタツムリをつつく。

カタツムリはカラに閉じこもり動きを止めた。

ゴウカン「おや、もう散歩は終わりかい?カタツムリ君。」

ハデス「(・・・・違う。)」

ゴウカン「おや?」

ゴウカンは奥から歩いてくる布をローブ代わりにした者が歩いてくる。

身長からしてメダロットだろう。ハデスと同じくらいの高さだ。

そのメダロットはゴウカン達を一瞥(いちべつ)しただけで何もいわず横を通り過ぎる。

ハデス「・・・・・・待て。」

メダロットは足を止める。体は歩いていた方向を向いたままだ。

ハデスも体の向きを変えずに言う。

ハデス「・・・・・・その気配だとよそ者だな?

    この町になんの用だ?」

????「・・・・・・」

ハデス「・・・・・・・・・答えろ。」

????「・・・・・・お前には・・俺なんかわかるかよ・・」

ハデス「何?声が小さくて聞こえないぞ。」

????「・・・」

メダロットはまた歩き出した。

ハデスは横目でそのメダロットを見ながらゴウカンに視線を戻した。

ゴウカンは懐から虫眼鏡を取り出しカタツムリをマジマジと見

つめている。

ハデス「・・・・・・・・。」

ゴウカン「んぅ?ハデス、もう話は済んだのかい?」

ハデス「話のような話はしていない。」

ゴウカン「は?」

ハデス「ほとんど無言で立ち去った。なんていうか・・・暗い奴だな。」

ゴウカン「ふぅん・・・あの時のお前と同じだな・・。」

ハデス「は?」

ゴウカン「そういうのはもとからそういう性格なのか・・あるいは。」

ハデス「あるいは?」

ゴウカンは何も言わずに立ち去った。

ハデス「マスター?ちょ、・・・・あるいは・・何なのだ!?」

ゴウカン「調査は終わりだ。帰還する。」

ハデス「調査って・・・マスターはカタツムリしか見ていないのでは!?」

ゴウカン「ふははははははははは。」

ハデス「・・・・・・・。」

ゴウカンが笑い終わると雨は止み、綺麗な三日月が顔を出し始めた。



東の地平線から朝日が上り始めた。

スザク達は水溜りができた公園でいつもどおりロボトルをしようとしていた。

ビャッコ「ロボトルファイト!」

その様子を紫苑達は遠くから眺めていた。

レプラスはふと公園の外に一人のメダロットが立っていることに気がついた。

雨の中歩いていたメダロットである。

メダロットは静かに公園に足を踏み入れると近くにあった木製の椅子に腰を下ろした。

スザク「・・・・・ほう(ニヤリ)ナンバー2!

 ちょっと待ったァー!」

ゲンブ「!?一体いきなりなんですかスザク君!」

スザク「ロボトル中止。」

ゲンブ「はあ!?」

スザク「お前!ロボトル勝負だぁ!!」

スザクはメダロットの方を指差し大声で叫ぶ。

????「・・・」

スザク「お前だお前!そこの椅子に座ってる!そうお前だよ!

その様子だと新顔だなぁ!?」

????「オレは・・・・オレはロボトルなんかしたく・

・したくねぇ・・・!」

スザク「はぁ?メダロットのくせにロボトルしたくないんかぃ?

こんな腰抜けもいるもんだな。」

????「んだとっ・・!?・・くっ・・・ダメだ・・ダメなんだ」

メダロットは首を横に振り落ち着こうとしている。

????「(オレが・・・オレがロボトルしたら・・・・もし

かしたらまた・・・・。)」

その様子を見てスザクは呆れながらメダロッチを構えた。ゲンブの顔が歪む。

スザク「しゃぁないな、アレス、ついでだからその腰抜けに一太刀喝を入れてやれ。」

ゲンブ「なんですって!?」

アレス「マスター・・・それは・・。」

スザク「新顔にはここでは誰が一番強いかわからせてやらなきゃなぁー!!!行け!」

アレス「りょ・・了解!でやぁ!!」

????「・・・」

メダロットはアレスの斬撃を紙一重で避ける。椅子は真っ二つに崩れ落ちる。

????「やめろって・・」

アレス「問答無用!メダロットなら、ロボトルとマスターに忠誠を誓え!」

アレスが左腕を繰り出す。破壊力のあるストローハンマーだ。

????「(なんなんだ・・こいつらは・・)」

カァァァァァァァン

????「・・?!」

ヘルメスが二人の間に入りアレスのストローハンマーを受け止める。

アレス「何ッ!?」

ヘルメス「嫌だと言っている相手に無理なロボトルを申し込むものではない。

     ロボトルというのはお互いの合意があってこそ成り立つのだ。」

スザク「ナンバー2!邪魔すんな!!」

ゲンブ「僕らのロボトルはまだ始まったばかりです。

    開始直後に相手の変更なんて、言語道断ですよ?」

ヘルメス「ここはまかせよ。戦う気がないなら早々に公園を出るがいい。」

????「・・・・・」

ヘルメス「だが、勘違いはするな。メダロットならばロボトルは宿命。

     人でも戦わなければならない時がある。

     いかなる理由でも、それは永遠につきまとうのだ。

     何も知らないそれがしが申しても、ただおせっかいなだけかもしれぬが。」

????「・・・」

アレス「く・・・・・ぅぅ・・少しはやるようになったようだな。あれから彼是1ヶ月か。」

ヘルメス「とにかくここはそれがしが相手だ!どれだけ上達したか、見てもらう!」

アレス「おもしろい・・・見せてみろ!

そしてオレの体にお前の名を刻み込め!!」

ゲンブ、スザク「勝負ッ!」



メダロットは静かに公園を出て行った。

紫苑「レプラス?」

レプラスの姿が見当たらない。

ステルミア「先程あのメダロットを追いかけていきましたよ?」

紫苑「え・・?ま、いいか。私はこっちが気になるし。」

セイリュウ「しばらくは自由に、ていうこと?」

紫苑「何から何まで一緒というのも悪いかなと思って。

   プライベートな時間を与えるのも、たまにはいいんじゃない?」

ステルミア「プライベート・・?そ、それはどういう意味で?

      ・・ぇ?」


第53話 〜寒垢離(かんごり)〜



????「・・・・いつまで来る気だ」

後ろからついて来るレプラスにボロボロのマントをなびかせながらメダロットが聞く。

レプラス「え?・・・・いつまでだろう?」

????「・・は?・・・なんのつもりだ?」

レプラス「なんのって・・まだ全然話してないし、名前も聞いてないし。

 ロボトルもしたいしさ?あ、僕はレプラス!よろしく!」

????「・・・・オレはウィズだ・・」

レプラス「ウィズ?君の名前ウィズ?よろしく!」

レプラスは右手を出したがウィズは振り返ることもなく地面を見つめている。

ウィズ「・・・・・。」

レプラス「・・・・。」

ウィズ「・・・・・・・。」

レプラス「・・・ねぇ?」

ウィズ「・・・・・・・ん?」

レプラス「ウィズはなんでロボトルしないの?ロボトルは楽し

     いじゃないか?」

ウィズ「・・・・楽しいだと?オレはそんなこととは思えねぇな。

    戦うたびに傷つけ、傷つけられる!それが楽しいのか!?お前は?!」

ウィズは声を荒げているが顔はこちらを見ていない。

レプラスはしばらく沈黙した。差し出した右手をゆっくり引っ込めた。

レプラス「・・・・確かに・・毎回傷つけあうけど・・でもそれは・・。」

ふいに空から声が降る。それはウィズをあざ笑うようだった。

????「傷つきあう?楽しいではないか?何を愚かなことを悩んでいるのだ小僧!」

ウィズとレプラスは声のした方向を見上げる。両膝に青い宝石をつけ、黒いマントを翻す機体・・。

レッドダークン、そして見たこと無いメダロットが2、3体浮かんでいる。

かごつばのついた剣を構えながらレッドダークンは笑い続ける。

ダークン「傷つけ、傷つけられる?クハハ、そんな物、常識であろう!!

     弱者は野垂れ死に、強者だけが生き残る、傷つけあう、殺しあうは世の中の常識ではないか?」

ウィズ「!?殺しあうのが・・・・常識だと!?」

ダークン「そう。友情だとか、信頼だとかが大事とか言っている奴がいるが

     そんな『鉄屑のような』信念、ゴミに等しい!

     この乱世を生き残る手段は殺す!それしかない!貴様らのような外道はな!

     私のような『優秀な』者は別だがな。」

ウィズ「お前のような・・お前のようないかれているメダロットが優秀だと?ふ、笑っちまうぜ!」

ウィズは背中から剣を引き抜く。刃は一瞬にして伸び2メートルほどになる。

レプラス「(これが・・・ウィズの武器!?)」

ダークン「おもしろい・・おもしろいではないか。無謀しか知らない雑魚がどのような死に様を見せるか・・

     『特別な』『希代の』我に見せてみよ!おもしろいデータがとれるかもしれん・・クク。」

空に浮かんでいたメダロットがレプラスの後ろに降り立つ。

レプラス「!?なんだこいつらは!?」

ダークン「我らロボロボ団の開発したメダロット、ロボウェポンだ。

     ガラクタのゴーフバレットの比ではない戦力よ!

     ロボウェポン、そちらのデータ宝庫の相手は任せる。

     『優秀』な我は腰抜けを叩き殺してしんぜよう。この『世界一』の剣でな!」

レッドダークンは剣をウィズに向かって振るう。ウィズは紙一重で避け背後から大剣をなぎ払う・・はずだった。

ウィズ「(ぐ・・・!?うああああああああ!!!!!)」

ウィズは頭を抑える。微かにぐぅ・・と声を漏らした。

ダークン「?隙だらけだぞ凡愚が!」

レッドダークンはウィズを蹴り飛ばした。ウィズのマントが外される。

ダークン「ほう・・貴様も特別な機体だったか。だが手ごたえがないな。」

マントからあらわになったのは製品名エンデバーと類似した機体だった。

しかし所々が製品版と違い、性能が向上している。大剣もそのうちのひとつである。

ウィズは脳裏の奥に一人のメダロットの姿を見ていた。自分と全く同じ機体で全く別の存在を。

ウィズ「(やはりオレは・・こんなときでも相手を殺してしまうのだろうか・・?)」

ダークン「つまらぬ。つまらぬぞ!それが貴様の実力か!?笑わせる!外道!雑魚!

     蚊トンボの方がまだ手ごたえがある!・・・・失望極まりないではないか。」

ウィズ「(くそ・・・・・・・・・っ・・)」

レプラスは得意の連携攻撃を繰り返しながらロボウェポンを撃破していく。

だが所詮は3対1。レプラスのダメージは否めない。

レッドダークンの剣を受け続けながらウィズは殺してしまったメダロットの幻影をかき消そうともがいていた。

ウィズ「く・・・・邪魔すんじゃねぇぇぇ!!!!!!」



ダークン「ぬぉ!?」

ウィズは大剣を振りレッドダークンのわき腹を斬る。鮮血が辺りを染めた。

レッドダークンのメダルが真っ二つになるのをウィズは見た。

ウィズ「やっちまっ・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

ウィズは頭を抱え込む。

ダークン「く・・・・んぅ?」

斬られたはずのメダルには変化は全くなくひびひとつ入っていない。

ウィズは幻を見ているのである。

ダークン「訳がわからぬが・・何を無駄なことで血迷うというのだ下郎がッ!」

ウィズは武器を持ったまま近くの壁に叩きつけられる。がっ・・と短い悲鳴を漏らす。

レプラス「ウィズ!ぐぁっ!」

ロボウェポンの拳を受ける。もはやレプラスの装甲はあと幾分も持たない。

レプラス「くそ!」

レプラスはロボウェポンを蹴り飛ばす。ロボウェポンはくるりと宙返りをし綺麗に着地した。

黄色いボディを輝かせながら肩から10発あまりのミサイルを発射する。

レプラスは連携攻撃をばらまきそれを防御する。そして即座に頭部で装甲を修復した。

ウィズ「ぐ・・・ぅ・・・がぁッ!」

ウィズは成されるままにレッドダークンの攻撃を受け続けている。武器も構えておらず、無防備である。

レッドダークンは最後に剣をウィズの体に突き刺す。

ダークン「失望だ・・頂点に達する我から貴様に『無能』の称号を与えよう。」

レッドダークンを突き刺した剣を抜く。剣についたオイルを拭うと鞘に戻した。

レプラス「ウィズ!うぐっ!」

ロボウェポンの攻撃を受けレプラスも倒れる。

ダークン「後味が悪すぎるぞ・・『優秀な』我から『特別に』チャンスを与えよう。

     我と再戦したければ北区の工場跡地に来い。来た時、今度は本気で殺してしんぜよう・・。」

レッドダークンとロボウェポンをそれ以上は何もせず去っていった。

ウィズ「くっ・・・・・・。」

レプラス「・・・・・・・・・ぅ・・?」

レプラスは薄れゆく視界の中で緑色の足が目の前に止まったのを見た。



レプラスとウィズは同時に目を覚ました。

まわりは淡い水色が全体に広がっている。床も、壁も、天井もない空間にいた。

あれほどの攻撃を受けボロボロになった体ももとどおりに直っている。

ウィズ「こ・・これは・・・」

????「目覚めたか。」

突如前方に緑色のメダロットが姿を現す。瞳は赤く炎のように燃え上がり、腰にツルを思わせる湾曲の刀を携えている。

????「紹介が遅れていた。私はフォスト。ここは魂の行き着く場所だ。」

ウィズ「魂の・・?つまりオレはもう死んだということか?」

フォスト「死んではいない。言うなれば死と生の境界だよ。君

     達とどうしても話がしたいのでつれて来た。」

ウィズ「話だと?」

フォスト「少し記憶を拝見させてもらった。君はある時、自分の不注意で一人のメダロットを殺してしまった。

     それ以来、戦うのが怖くて怯えている・・・いざ戦えば、幻を見る。」

レプラス「メダロットを殺した・・・!?」

レプラスはウィズの方を振り返る。ウィズはだまってそれを横目で見ると嘆いた。

ウィズ「・・・・まわりは事故といったが・・・事故で許されなかった・・

    オレが・・・オレ自身が・・・・この手で・・・。」

フォスト「まぁそう自分を追いやるな。闇に落ちた実は永遠に割れることがない。」

ウィズ「・・・・・。」

フォスト「君は過去の私と同じだ。変わらない運命を変えようと努力しようと・・思うだけの。」

ウィズ「?」

フォスト「私の話を聞きたまえ。レプラス、君も是非聞いて欲しい。」

レプラス「え?・・・ぅ、うん。」

ふいに空間が暗くなる。3人ともすぐ近くにいるはずなのにお互い姿が見えなくなるほど暗くなった。

フォストはその闇の中で静かに語りだした。


第54話 〜蘇生〜



−静かな森だった。鳥達がささやき、動物達も仲良く暮らす。

何千年経つかわからない巨木が生い茂り、私達メダロットも幸せに暮らしていた。

束ねる役を務めていた私に信頼を寄せるものは半数程度だったが私は気にしなかった。

時折森を荒らす者が来れば退治し、哀招く者いれば助けたりした。

しかしその幸せを破壊せんともくろむ者も現れた。

それがロボロボ団。

森への侵攻を防いではいたが損害は大きかった。たくさんの仲間や動物達が死んだ。

森の中で唯一の人間だったあの方も乱世の中で息絶え、屍は行方がわかっていない。

ある時、ロボロボ団が森から北にある草原で勢力を整えているという情報を手に入れた。

だが草原との間には大都市がある。森を狙う犯罪者も、都市にいないとは限らない。

もし私達主力部隊がここを離れれば・・・

私は場所を知ってもなお攻めないことを決断した。それに不満を持つものももちろんいた。

しかし数日後予想通りどこからか聞いたか森を狙う者が10数人くらいで攻めてきた。

それを討ち取り、その場を押さえることはできた。が、

数週間後、今度はロボロボ団の大部隊がこちらに侵攻しているという情報が入った。

兵数は1万はくだらない。最初の部隊を殲滅しても、

まだその3倍の戦力の部隊が5、6つ待機しているらしい。

私は最後まで戦うことを決心した。

副リーダーを務めていたリウスという男にそう話すと、リウスは静かにうなずき、

私と共に戦ってくれることを誓った。戦闘部隊長のハデスも同様だった。

「何を言い出すのだ!?リウス!」

その結論に不満を持つ者の筆頭、銀色の戦士。

「今我々がここを離れなければ皆やられてしまう!」

「敵の目的は私達なのだ!!」

彼らの意見は敵が狙うのは私達だということ。森は関係ない。

私達が森にいるから森に被害が生ずる。つまり森から離れれば

森に被害はでないだろうということだった。

都市から侵攻する者も恐らく同じだろうということである。

だが本当にそうなのか?私は疑問でならなかった。ここには動物達が数多くいる。

動物達を殺す者も、いないわけではないのだ。

「なら君達は皆を捨てて逃げるというのか?」

「逃げる!?何を馬鹿なことを!アンタの方が皆を見殺しにしているじゃないか!!」

確かに。一里ある答えだった。だがどちらをとっても答えは同じなのかもしれない。

「私はここに残る。行きたければとっとと行くがいい。

 かつて沙場に戦いに行った古来の勇者のようにならんことを祈ろう。」

「いくじなしだNE。まーいいYA。バニジン、行くよ?」

「フン・・。」

だが展開は予想をはるかに上回っていた。この森は南を少し小高い山に囲まれている。

ほかの方向を全て敵にかこまれた状態になっていた。もうどこにも逃げ場所は無い。

「逃げ場所なんて・・どこにもないッスよ。」

「チッ・・・(予定通りの時間だ)」

「仕方ない・・・シルバ!防衛戦に至急参加せよ!バニジンガルムもだ。

 この戦いの決着がつけばどこにでも自由だ。これが我らの最後の戦いにしよう。」

そして私達は最後の戦いに赴いた。

結果は勝利、と言えばよいのだろうか?戦に向かった仲間達の

中で帰還したのはハデス一人のみ。

残りの者は全て全滅。あるいは、裏切り敵側に退き生き残った者。

生死不明の者多数。それでも敵のほうは全体の8割以上をを撃破、撤退。

フォスト「その時だ。君と同じ気持ちは。」

ウィズ「・・」

フォスト「直接殺してはいないが、私の下した判断で未来がある数え切れない者達がこの世から去った。

     私はいまだ、人の上に立つ仕事は拒み続けている。」

ウィズ「・・・。」

フォスト「だが誰かがやらなければならないのだ。

     戦いも同様、自分がやらなければ、誰かがやる。

     しかし、そう思っていたらダメなのだ。自分が戦わなければ、いずれ自分は死ぬ。

     それが乱世の掟。」

ウィズ「掟?」

フォスト「少なくともそれに近き言葉は聞いているだろう?」

ウィズ「メダロットなら・・・ロボトルは宿命・・」

レプラス「・・・・。」

フォスト「時間だ。もとの世界に戻るがいい。」

ウィズとレプラスは目の前がぼんやりと白くなっていくのを感じた。



紫苑「レプラス!しっかり!」

レプラスは目を覚ました。ウィズも同時に目を覚ます。

レプラスは予備のために買っておいたムーンドラゴンにパーツが交換されていた。

近くでステルミアがジ・エンシェントの装甲の修復作業をしている。

ウィズの方は粗方終わったようで今はレプラスの方を集中してやっている。

レプラス「少しロボロボ団にからまれただけだよ・・。気にすること・・ないさ。」

紫苑「気にするって!私がレプラスがいなくなったことに気いた時、

   あんな曖昧な判断をしたために・・レプラスが・・!!」

紫苑はボロボロと涙をこぼした。地面の一部が雨が降った様に濡れる。

ウィズ「(涙・・・?)」

ステルミア「・・・・。」

レプラス「うわ!し・・紫苑!ちょ、ちょっっ!!!」

セイリュウ「(今は少し・・レプラスが少しうらやましい・・)」

レプラスは指で紫苑の涙をやさしく拭っている。セイリュウも紫苑を慰めている。

ステルミアはひたすらレプラスのパーツを修理している。その目つきは険しく、時々ため息を漏らす。

ウィズはその光景を驚きの瞳で見つめていた。

ステルミア「レプラスさん、紫苑さん・・誠に言いにくいのですが・・。」

紫苑「・・?」

ステルミア「もうこのパーツ・・・ジ・エンシェントは修理が不可能です。

      損害は少ないですが、攻撃の中心となる制御装置の全てが破壊されています・・。

      この状態にもなると、メダロット社でも・・・不可能です。

      (そしてこの傷は間違いなく奴の物ですね・・。)」

紫苑「そんな・・・。」

レプラス「・・・・・・・くっ。」

ウィズ「(・・・・・だがメダルは無事だった)」

レプラス「紫苑・・・クロスドラグーンを転送して!」

セイリュウ「(クロス・・ドラグーン?)」

紫苑「え!?・・でもあれは・・。」

レプラス「攻撃範囲は僕が幾らかは調整する!早く!」

紫苑「う、うん。」

紫苑はパーツを転送する。レプラスの機体が、眼帯をつけた水色や赤色の綺麗なパーツに変化する。

レプラス「よし・・と。」

ステルミア「レプラスさん・・このパーツは?」

レプラス「知り合いからもらったんだ。新型パーツとかって。」

ステルミア「ほう?(・・・・・まるでアイツの新兵時代の機体じゃないか・・。)」

紫苑「何をそんなに急いでるの?レプラス。」

レプラス「レッドダークンが再戦したければ来いッて言い残していったんだ。

     このままじゃ終われないよ!奴は北区の工場跡地で待っている!

     紫苑!行こう!?」

紫苑「レプラス・・・・・・うん。行こう。北区の工場跡地だね?」

ウィズ「おい!・・・・その・・俺も連れて行ってくれ。」

レプラス「・・・うんわかった、行こう!」

レプラスは右手を差し出した。ウィズはしばらくその手を見つめていたが左手でその手を強く握った。

ウィズ「・・・行くぞ!」

レプラス「あいよ!」



紫苑の家の屋根の上で白い仮面をつけた男はあごをかきながらイヤホンで何かを聞いていた。

ゴウカン「・・・・・どうやらまた戦乱に行くようだ。」

ハデス「何?」

横で薄めの小説を読みながらハデスが答える。

ゴウカン「場所は北区の工場跡地だそうだ・・。敵はレッドダークンほか数機。」

ハデス「了解。アースークにも連絡してくれ。」

ゴウカン「了解了解。さて、では害虫駆除にでも参るとしますかな?ハデス。」

ハデス「そろそろアイツにも頑張ってもらわなければ困る。

    まだ私はアイツを認めたわけでは無いからな。」

ゴウカン「ふはははは。急ぐぞハデス。」

ハデス「了解、メダチェンジ!」

ゴウカン「ブースター転送。」

銀色の翼は大空へ消えた。



ウィズ「・・・・自分が戦わなければ・・・いずれ自分は死ぬ・・か・・。」


第55話 〜生鉄(なまがね)〜



そう遠くない時代、ここも一心に働き続け世界を支えていたのだろうか?

だがその支えていた柱も今は朽ち果てている。本当にここは工場だったのだろうか?

石ばかりがゴツゴツ並び、

工場と思える建物はほぼ完膚なきまでに崩れ落ちていて景色の一部になっている。

虫も幾つか飛んでいる。飛んでいるのはハエばかりで落ちているゴミにたかったものばかりだ。

崩れ落ちている工場の残骸の中で最も高さのある残骸にレッドダークンは座っていた。

ダークン「・・・下民が・・・おとなしく尻尾を巻いていれば

     お主らも少しはまともな未来が訪れただろうに・・愚かな。」

ウィズ「・・・・。」

レプラス「もうお前なんかには負けない!・・負けてたまるか!紫苑、行くよ!」

紫苑「うん!」

セイリュウ「ステルミアは調整前だからやめとこうね。」

ステルミア「あ、はい。」

レプラス「ウィズ。」

ウィズ「・・・ああ、わかった」

ウィズは背中の大剣を引き抜いた。辺りに風が出てくる。刃が陽光に反射して光を帯びる。

ダークン「無能が・・少しはやる気になったようだな。だが『優秀な』我が出るまでも無い。

     ロボウェポン、やれ!!」

一つ目の巨人が5、6体舞い降りる。

ステルミア「!?新型ですか!?」

レプラス「さっきよりも数が多い!?くそ!」

ウィズ「・・今のオレには造作無い。んじゃレプラス、残りはまかせたぜ?」

レプラス「ぇ・・残り?あ、ウィズ!?」

ウィズはロボウェポン1体に剣を構えながら突進していった。剣が空気との摩擦で赤く輝く。

ウィズ「・・・ミカゼと考えて鍛えてきた技、今こそ使う時だ。断 光 華ー!!」

ヒュン、と速い音を出し剣をなぎ払う。剣はロボウェポンの両足、左腕だけを切り裂いた。

片膝を地面につきながらさらに剣を水平に振り、ロボウェポンの目玉だけを斬り抜く。

ウィズ「ふっ、ハヤテなる風使いウィズ、今ここに復活。」

レッドダークンの口癖を真似したか、

無意識にやったのかはわからないが長いセリフである。

レプラス「うひゃ〜・・・おっと僕も負けてられない!リペアシューター!」

赤い閃光の雨がロボウェポン数体を焼き尽くす。

ダークン「その機体・・・見覚えないな。

     ガルムの言っていた・・新型か。おもしろい!」

レッドダークンは剣を抜くとレプラスに向かっていった。そこにウィズの剣が割り込む。

ウィズ「お前、いや貴様の相手はこのオレだ!くらえ、神 天 剣 連牙ァッ!」

    空からレッドダークン目がけてするどい空気の刃の雨が降り注ぐ。

ウィズはメダフォースとは違う独自の必殺技が使えるらしい。

ダークン「くぅ・・無能の割には多少はやるようだな?」

レプラス「次ぃ!!」

レプラスはロボウェポンを連携攻撃で吹っ飛ばす。ロボウェポンはレッドダークンの方に飛んでいった。

レッドダークンはそのロボウェポンがぶつかる直前に剣を振り回し一刀両断する。

ウィズ「なんだと!!メダルを関係なく斬るのか!?」

ダークン「所詮は量産機、生かしておいても利益は無い!この星のエネルギーが無駄に使われるだけだ。

     殺しても、どうこういう問題でもなかろう。」

ウィズ「・・・・・・貴様・・・許さねぇ・・!!!」

ダークン「優秀な我は後ろのデータ倉庫と戦いたいのだが、無謀な下民が・・。

     そこをどかないというのならまず無能な貴様から血祭りにあげてくれる!」

ウィズ「・・かまわねぇぜ、来い!!」

レッドダークンはマントから球状の物を幾つかばらまいた。

宇宙でアレスを破壊しようとしたセンカラッツである。

ダークン「愚民には最高級の冥土のお土産だ。『仏の』我に感謝せよ!発射ァ!」

数本のビームをウィズ目がけて放つ。ウィズは剣先を宙に文字を書くように振ると左手の人差し指を立てて叫んだ。

ウィズ「風 蒼 鎧!」

左手に空気の壁が出来上がりセンカラッツを煙で浄化する。たちまちレッドダークンの視界はゼロになった。

ダークン「むぅ・・目くらましか・・どこだ?」

悩むレッドダークンの頭上から声が響く。大剣を振りかぶりながらウィズが落ちてくる。

ウィズ「これで終わりだぁああああ!!メダスキル"ヴォーブレイド"!」

ダークン「!?上だと!?」

レッドダークンは刀を横にしこれを受けるが、

ウィズの"ヴォーブレイド"で刀は折れてしまった。ウィズの切っ先がレッドダークンの頭部を斬る。

ダークン「ぐおッ!?」

大剣を横にし右脇から体を真っ二つにする。

脚部を失った上半身だけが地面に転がった。

ウィズは突き刺すように大剣を振りかざす。

だが彼はその剣を突き刺すことはできなかった。



ウィズ「・・・!?」

ウィズとレッドダークンの間に割り込んできた茶色とオレンジ色が特徴のメダロットは片手でウィズの攻撃を受け止める。

ハデスと会話していた、アースークというメダロットだ。

アースーク「・・・・いくら憎いとか悪者とか言ったって、どんな時でも殺める訳にはいかないっスよ?」

アースークは不思議な笑みを浮かべウィズと対峙した。



突然の登場にレッドダークンもウィズも、そして紫苑達も何が何なのかわからなかった。

そこにゴウカンとハデスが駆けつけてきた。

ハデスはアースークが敵を助けたことを見ると足を止める。

アースーク「リーダーご到着ッスか。」

ハデス「お前・・・それはなんのつもりだ!!?まさかお前も私達の敵になるというのか!?」

ダークン「おぉ・・アースーク、でかしたぞ!!さぁ、その鉄球でコイツを、無能を叩き潰せ!

     我が軍門に下るために我を助けた・・そうであろう!」

だがアースークはレッドダークンを蹴り飛ばした。

ダークン「ぐほぉ!!」

アースーク「どちらも大不正解ッス。色々と言いたい事がありましてねぇ・・。

      まずひとつ今アッシと対峙してるチミ!!」

ウィズ「?」

アースーク「チミは戦闘開始直前に『今のオレには造作ない』とかって言ったけど今も昔も大差無いッス。

      カッコつけすぎの大バカ野郎ッスね。」

ウィズ「・・・・・・。」

アースーク「チミはなぜ一度戦いを捨てた?それは事故により一人のメダロットを殺した。違うッス?」

ウィズ「・・・なぜそれを?。」

アースーク「シャーラップ!!まだこちらの話はドントエンド〜。話は最後まで聞くッスよ。

      最初は事故だった。しかし誰かの説得でチミはまた戦うことを決意した。しかし!

      チミは今度も一人のメダロットを殺そうとしたんス。それも今度は事故じゃない!」

ウィズ「・・・」

アースーク「殺メダ鬼という言葉をどこかで聞いた覚えがある。まさに今の君はそれ。

      ・・・・・・・・意味違うか。」

ウィズは剣を手放しガックリとうなだれる。

ウィズ「・・結局は・・あいつと・・デバスチャーと同じ・・結果・・か・・?」

動かなくなったウィズにやれやれといった表情のアースークは

レッドダークンを見ると口を開いた。

アースーク「この戦い、命を落とす者が多すぎるッス・・敵も

      味方も。誰かが止めなければ増える一方ですから。」

ダークン「くはははは・・・おもしろい。変だと思えば・・・そういうことか?

     我はそんな無能の考えで生かされたのか・・片腹痛いわ!」

上半身だけのレッドダークンは苦し紛れに笑った。だがその笑いはアースークの言葉を聞くなりピタリと止まる。

アースーク「それに、ダークンが死ねば、きっと彼女も悲しみますからね。」

ダークン「彼女・・・だと?馬鹿めが、優秀な者は常に孤独でいるもの。

     そんなもの持ったところで、戦略の妨げにしかならぬ!邪魔だ!!」

アースーク「その割には彼女と戦った方がダークンは強かった・・違うッスか?」

ダークン「怒りの感情が満ち溢れてくる・・一応聞いておこう、その邪魔者の名は?」

アースーク「・・・・メカドラグーン。」

するとレッドダークンの目は見開かれアースークに怒りの感情をぶつける。

ダークン「ふざけたことを!あんな外道が彼女だと!?愚弄にしてはふざけた言い回しだ。

     我の体がこんな状態でなければ・・・・今すぐにでも貴様のその汚れた喉笛、叩っ斬ってくれようぞとも・・!

     グフッ・・・くっ・・。」

アースーク「アッシはここに来る前、彼女をここから南の海で見ましたッス。」

ダークン「なに!?・・・ぐっ・・下郎が・・そんな信用ならぬゴミのような情報に惑わされはせん。

     希代の戦神の心を弄ぼうとしても、全く無意味無意味無意味なことよ!!!!・・・・ぐっ・・。」

アースーク「アッシはそんなアンタがどうも強がっているようにしか見えないッス。

      ホントは今すぐにでも駆けつけたい、違うッスか?」

ダークン「だまれ!!どこの馬の骨かわからぬ者に思いを寄せるほど、落ちぶれておらぬ!!!我は常に一人!!

     一人の方が、より完全無敵の存在へとなるのだ!ほかへの無駄な気配りも必要とせん!!」

アースーク「命持つもの、それら全ては一人では生きてゆくことは不可能の存在ッス!

      いい加減に自分だけが強いと思うのはやめるッス!」

ダークン「それは遙か昔の猿人に値する愚かな考え!そのような言葉、信じておったのか・・赤子だな。」

アースーク「そんな言葉、言うたびに彼女が悲しむということを、何故わからないッスか!!」

ダークン「だーまーれぇ!!!!アレは彼女でも仲間でも無い!!貴様に何がわかるというのだ!!?

     愚かで下等、何にも使えぬガラクタ同然の貴様に!!!!!!!!!!!!」

アースーク「もう一度言いましょうか・・・アンタはメカドラグーン無しでは何もできない弱者ッス!!」

ダークン「下郎が!!!」

レッドダークンは手に持っていた折れた剣を自分の胸を深々と突き刺した。

ウィズ「な、何ぃ!?」

ダークン「ハァ・・・・・ハァ・・・・自分より下等な・・・・

     塵同然の存在の戯言に・・・・・・・・ここまで・・・・・・屈辱を・

・・味わせられたのは・・・・はじ・・・めてだ・・・・・この場は・

・・・・・・・・『特別』・・・・に・・見逃して・・・・やろう・・

次に・・・・・会うとき・・・・は・・・全員・・・・・骨一欠けらも

・・・・残さず・・・・この世から・・・・消して・・くれ・・る・・・・わ・・。」

レッドダークンは気を失った。

ダークンを見ながらハデスはアースークに近寄る。

ハデス「どう言ってもコイツは変わらないとおもうぞ。」

アースーク「わかってますよリーダー。」

アースークはウィズに聞こえる程度の声でハデスに言った。

ウィズ「・・・・。」

アースーク「自分の信じてきた大義を否定するのは大変なことですよ・・今更ですけど。

      正直この世界、何が良くて何が悪いか、そんなのハッキリなんかしてません。十色ですよ?

      良いこと悪いこと、人それぞれで違うッス。アッシの大義も、正直誰か彼かに否定される時も来るでしょうしね。」

ハデス「あいかわらず良い覚悟だな・・お前は。」

アースーク「光栄ッス。」


第56話 〜圧殺〜



ウィズの脳裏には様々な光景が浮かんでいた・・。

巨大な爆発と共にあるメダロットを殺した過去の記憶、

そして今目の前に眠る血だらけのメダロット、

自分は何をしてきたのか、旅の途中何を学んだのか、

何も学ばなかったのかもしれない。ただ自分を閉じ込めておくだけ、

そんな無意味な旅だったかもしれなかった。

銀色の機体を光らせながらハデスはウィズの襟元をつかむなり無理やり立ち上がらせる。

ハデス「青二才・・・・何を迷っている。」

ウィズ「・・・・・・オレは・・・・オレは・・・・ぐっ!!」

ハデスはウィズを殴り飛ばした。

レプラス「ハデス!」

レプラスはハデスを抑えた。ハデスはそれを振りほどこうとする。

ハデス「どけ!リ・・レプラス!こんな青二才など・・・。」

ウィズ「・・・・。」

アースーク「ふわぁ〜〜〜あ〜ぁ・・・おい、ウィズったっけ?」

大きなあくびをし、沈む夕日を見守りながらアースークがウィズに問う。

アースーク「チミが望む未来って・・・何だ?」

ウィズ「望む・・・未来?」

アースーク「ん〜・・・似たような言葉で言っちまえば・・チミは何を希望する?

      何のために生きる?チミにとって大事なものとは何だ?ってことさ。」

ウィズ「大事なもの・・か・・」

アースーク「アッシはとりわけある女の子が好きとか、この方のためなら命も投げ出せるほどの人物はいないッス。

      でも・・・。」

ウィズ「・・でも?」

アースーク「アッシはこの世界が好きだ。かつてマスターと共に歩いたこの世界が。

      時は流れ、景色、空気、半分以上が変わってしまったけど基本は変わっていない。」

紫苑「基本?」

アースーク「見ろよ、あのオレンジ色に染まる空を。」

言われたとおり一同は空を見上げた。小鳥達が自分の巣に帰っていく。雲は流れ日が落ちてゆく。

アースーク「空の色は昔となんら変わんねぇ。マスターが言ったように、いつもアッシの色をしている。」

アースークはオレンジ色を主とした機体。一部茶色も混じってはいるが。

ウィズ「・・望むもの・・・大事なもの・・か・・。」

アースーク「アッシはこの空を守るため、かつて共に歩んだマスターの絆を消さぬために戦うッス。

      敵がたとえ同僚といえども例外は無いッス!!」

ハデス「ふっ・・・良い覚悟だな。・・・で?ウィズ、お前は?」

ウィズ「オレ・・?オレは・・・・大事なことを忘れてたな・・。」

レプラス「?」

ウィズは静かに立ち上がると大剣を背中から引き抜いた。刃が夕陽を帯び炎のように輝く。

その後しばらく瞑想していたが突然目を見開くと地面に剣を突き刺した。アスファルトが粉々になる。

ウィズ「大事なもの・・・・

    オレは大事なものが近くにあるのにそれに気付かなかった訳か・・笑いものか・・ハッハハハハ。」

レプラス「ウィズ・・・。」

ウィズ「レプラス、お前とはロボトルできそうもない。

    今やらなければいけないことが少しずつ思い出してきた気がするんだ。」

レプラス「・・・・・そっか。ロボトルは全てが終わってから、そういうことだねウィズ。」

ウィズ「・・・・・ああ。」

アースーク「んで?これからどこに?」

ウィズ「オレはマスターがいる町に戻る。

オレも、いつまでも油を売っている訳にいかないことが今わかった。」

そうするとウィズは剣を収め自分が進むべき方向を見た。

ウィズ「・・・戦ってまた殺してしまったらと思うと・・・怖いのは同じだが・・。」

アースーク「チミ、自分の犯した罪は償わず世間が忘れるのを待ち続ける派?」

ウィズ「は?」

アースーク「これからチミはこれから罪を償うために戦うんだ。ただ恐れて何が生まれる?

      罪というのは永遠に消えるものじゃない、消えてはいけない・・・。

      ならその罪とどう釣り合う事を成し遂げるか・・それが人生の課題ッスよ。」

ウィズ「罪を・・・・償う・・ために・・か。」

ウィズは何度かその言葉を繰り返した。言うたびに身に染み渡る感じがする。

重たいものがスッと消えていくようだった。

レプラス「・・・えと・・そのさ・・。」

ウィズ「?」

レプラスは右手を差し出し力強く言った。

レプラス「僕が言うのもなんだけど・・ウィズは敵を圧倒させるほどの戦果を出せたんだ!ウィズは強い!

     だから自信持てば大丈夫だよ!僕が保障する!!」

ウィズ「レプラス・・?」

レプラス「そして・・・・・また一緒に戦おう!仲間として!」

ウィズ「(仲間・・・・そう思ってくれるのか・・。)」

ウィズはその手を固く握った。レプラスはさらにその手をさらに固く握り返した。



クルス町から少し離れた土手を歩きながらウィズは虫の鳴き声に耳を傾けていた。

様々な虫が鳴いている。まだ秋は遠いのに、虫が鳴いているのだ。

ウィズはもう一度言葉を繰り返した。

ロボトルは宿命・・・罪を償うために戦う・・・仲間・・

ウィズ「・・そうか、そうだったのか。・・ふっ、ははははは!

今までの自分が馬鹿らしい。・・・・ミカゼ、今から帰るぜ。待ってろよ」

ウィズは無限に輝く天の川の下で一人、自分が知る、なつかしい世界への道を早足で駆けていった。

そして、ウィズはクルス町であった出来事を思いながら、この世界をあとにした。

ウィズ「ありがとう・・・仲間・・レプラス・・!」


第57話 〜湮晦(いんかい)〜



互いに体力を消耗しているもなおぶつかり合うアレスとヘルメス。

ボロボロになったフレクサーソードを振り上げながらアレスが叫ぶ。

アレス「終わりだ!!」

ヘルメスはアレスの攻撃をしゃがんで回避、体に銃口を突きつける。

ヘルメス「それはそれがしのセリフ・・・逝けぃ!!」

距離0でライフルを発射、アレスは空を舞う。

アレス「くぅ・・・まだまだ!!!!」

落ちざまにかかと落としを食らわせる。すぐに態勢を立て直し爪を横になぎ払う。

ゲンブ「右45度、左18度、前方0度3発、てぇ!!」

ヘルメス「御意!」

ヘルメスは指示通りの方角に射撃する。弾が当たった場所をアレスが踏むと突然崩れだし足を捕らえる。

アレス「くっ!なんだ!?」

スザク「地面に穴が開いた!!?」

ゲンブ「少し地盤がゆるいところを崩してみたんですよ。ヘルメス、足を止めなさい!」

ヘルメス「御意!!」

ヘルメスは両腕の銃を連射させアレスの両足にことごとく弾をヒットさせる。

装甲が剥がれティンペットがむき出しになった後もなお銃を連射する。

スザク「くっ!アレス、あれをやるぜ!!?」

アレス「ぬぅ!!しょうがない・・・うぉおおおお!!!!!!!」

ゲンブ「!?」

アレスは右腕のフレクサーソードを自らもぎ取るとミサイルのごとくヘルメス目がけて投げる!

ヘルメスは左腕で防御するも、フレクサーソードはヘルメスの左腕を貫通した。

ヘルメス「うぉ!!?」

ゲンブ「自分のパーツを武器にした!?」

スザク「銃撃は止んだな・・アレス、いけるか〜?」

アレス「なんとか・・・いける。」

スザク「なんとか・・・・じゃ〜ダメなんだ、よ!!問題ない、そう言えや!!」

アレス「くぅ・・・問題・・・ない。」

アレスは静かに態勢を整えるとヘルメスに向かって唯一残った武器、ストローハンマーを構える。

ヘルメスもフレクサーソードを抜き捨てるとボロボロになった左腕を構えた。

スザク「少しはやるじゃねぇの。大抵はアレ一撃で終わるんだけどな・・。」

ゲンブ「僕も、こんな熱い戦いをそんなにアッサリ終わらしてもらっては困りますからね。」

アレス「お前はオレを倒せない、所詮銃ではオレに勝てないのだ!!」

ヘルメス「そうですかね?いい勝負をしています。それがしも、久しぶりに熱くなってきましたよ・・フフ。」

アレス、ヘルメス「勝負ッ!!!!」

二人は同時に突進した。

アレスは顔面に向かって左腕を繰り出し、ヘルメスは頭部目がけて右腕のライフルを撃つ。その攻撃は同時に相手を捕えた。

しばらくの間時が止まった。お互い攻撃を当てたまま動かなかった。

やがてお互い背中のハッチが開くと中からメダルが飛び出した。



ゲンブ「引き分けですか・・・・これで10戦9引き分け1負け・・最初だけですか。」

スザク「(あぶねぇ・・あぶねぇ・・ったく油断ならねぇ奴・・。)」

スザクは額の汗を拭いながらゲンブを睨みつけた。

ゲンブは破損した左腕レンジシューターに簡単な応急措置をしていた。

アレス「・・・・マスターも少しは手当てをしてくれてもいいと思うんだが・・どうもな・・。」

アレスはスザクに聞こえないぐらい小さな声でつぶやくと遠くでカラスの鳴き声が聞こえた。



ヘルメス「五分五分の戦いをしているが・・今のままではダメだ・・何か・・何かが足りない。」
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