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第10章 立ちはだかる血の壁

第58話 〜利水〜

下水道に響くキーボードを打つ音・・。

ハデスからミリオンと呼ばれたメダロットはずっと画面に向かっている。

まさに神速と呼ぶ速さでプログラムを打ち込んでいる。

シルバ「精が出るねぇ〜・・だいぶ空白は埋まったかい?ヴァーミリオンス?」

赤、オレンジがメインの機体と額に貝殻のような飾り、燃え上がる炎のようなひざ、

このメダロットの名前はヴァーミリオンスというらしい。

だが背中に少し長めの槍を背負っているほかは鎧などの武装は見当たらない。

攻撃用というより補助の役割が強いのだろうか?

ミリオン「少しはです・・・ですがまだまだです。保存・・・完了。」

シルバ「保存?作業を止めて休むのかい?ま、あんたはずっと仕事してたからねぇ・・

    誰も文句なんざ言わないっか。」

ミリオンは横に置いてあったいかにも重そうなゴツイ右腕にパーツを交換するとシルバを見て言った。

ミリオン「私に休養は授かれてはおりません・・私の任務は一刻も早くこの切り札を完成させること・・。

     残りの足りないデータは私自ら集めてきます。最終兵器に組み込んだプログラムのテストも兼ねて。」

シルバ「いきなり実戦?そりゃまずくないかい?なんなら一緒に・・。」

ミリオン「無用です。あなたはもう少し休まれた方が・・もしもの時は連絡いたしましょう。

     あ、そうそう・・。」

ミリオンは何かに気付いたように上を見上げた。

暗くてよく見えないが確かにそこにはレッドダークンが浮かんでいる。

カプセルに入って眠っているようだった。

ミリオン「お暇でしたら彼の相手でもどうでしょうか?傍にいるだけでもだいぶ気持ちも安らぐでしょう・・。

     では私は出撃します。」

そう言うとシルバを残し部屋を後にした。

膨大な量のデータを唸りを上げながら処理しているコンピュータの片隅でカプセルを見ていたシルバはカプセルを蹴飛ばした。

シルバ「誰がこんな天狗野郎の近くなんざ・・こっちからお断りだね!!・・・ん?」

数枚のフロッピーディスクがちらばる机の上に置かれたコンピュータを見てつぶやいた。

シルバ「・・・・・・ディスクが2枚?全く几帳面にもほどがあるよねぇ・・。」



そう言うとシルバも部屋を出て行った。

コンピュータの唸り声を聞きながら思い出したように立ち止まる。

シルバ「そういやアイツ・・・・ロボロボ団の中で唯一の・・・・・気にすることないかね。」



今日も紫苑達は公園でロボトルをしていた。

もちろん、ジ・エンシェントが使えなくなったレプラスはクロスドラグーンを装備している。

皆に初めて披露することになったわけだった。

スザク「!?それは新型パーツか!!?」

レプラス「う、うん。」

アレス「マスター!!!」

スザク「もちよ!!ロボトル勝負ッ!そのパーツ、オレが根こそぎ奪ってやる!!」

紫苑「え?・・・・レプラス?」

レプラス「うーん・・・・スザクが良いなら僕はいいけど・・」

スザク「なにぃ!!?くそ、なめた口聞きやがって〜・・・その口、へし折ってやる!!」

オシロイ「無理だと思うけど・・・ま、いいか。レプラス対アレス、ロボトルーファイ!」

二人は構えるとお互い睨み合う。先に動いたのはアレスだった。

アレス「おおおおおおおおーーーーーーーーー!!!!」



電信柱の上で公園を見つめる赤い影がある。ヴァーミリオンスだ。

ミリオン「標的発見。ここからでも充分データは取れそうですね。その方が・・できれば良いのですが。

     ハデス様、私の信じる未来、よく見ていてください。データ分析開始!」

大きな右腕は変形しアンテナなどを出すと装甲が緑色に輝き始めた。



スザク「一撃で決めてやるぜ?アレス、フレクサーソード!!」

アレス「了ッ解!」

アレスは右腕を振りレプラスに突っ込んでくる。

紫苑「レプラス、束縛後クリアエッジ用意!」

レプラス「束縛?うわっと!」

レプラスはアレスの右腕を脇にはさんで身動きをできなくした。

そして連携攻撃をアレスの目につける。

アレス「な・・・にっ・・!?」

スザク「なんだとぉ!!?くっ・・ギブだ!やってられっかよ!」

オシロイ「ひゃ〜・・・それまで!勝者、レプラス!」

レプラスはアレスを開放した。アレスはレプラスを横目で見ている。

アレス「・・・・傷つけずに勝つとは・・・な。嫌なことをしてくれる・・。」

ゲンブ「あれ・・スザク君、パーツは?」

紫苑「い、いいよ。別に・・・。」

スザク「チッ・・終わった後も嫌な気分だぜ。

    今といいアイツといいパーツの取り合いも無いとなると特にな!

    おらよ!勝手に持っていけ!!」

そう投げやりに叫ぶとアレスの頭部パーツ『ハンター』を投げつけた。紫苑はギリギリ受け取った。

紫苑「え!?で、でも!」

スザク「いいから黙ってしまえ!人間ロボトルされたくなかったらなぁ!!?えぇ!?」

人間ロボトル、いわゆる喧嘩というものである。

拳と拳のぶつかり合い・・決してスザクは相手が紫苑だろうが手加減しない、特に今は。

紫苑「う・・・あ、ありがと・・。」

レプラス「無理やりだなぁ・・・・!アレス、上!!」

アレス「?おおぅッ!!?」

上から落ちてきた炎をアレスは間一髪で避ける。地面がブスブスと焦げ、異臭を放つ。

ミリオン「つまらない・・じつにつまらないロボトルでした。」

ミリオンが持つ槍が静かに炎をあげている。

空から舞い降りたミリオンは無言で槍の矛先を地面に向けた。

スザク「なんだテメェは?いきなり何しやがる!!」

ミリオン「良いデータが取れるか、と思ったのですが失望でした。

     こんなロボトルのデータ、何にも使えません。」

アレス「ふん。オレが負けたロボトルのデータなど、使えないのは当然だ。」

ミリオン「ふふ・・そうでもないですよね?所詮あなたの力はこんなもの、

     それを今のロボトルで全てを見切りました。今のあなたに負ける者など、この世にいません。」

スザク「なんだと!?」

ミリオン「話に聞いていたこの町の虎、見かけ倒しもよい所です。この程度とは・・・。」

アレス「気に入らないな。たとえ女だろうと手加減無用というのがハッキリわかった。

    女!このオレと勝負しろッ!!!!!!!」

スザク「その意気だぜアレス!こんな奴・・・・ぶっとばせ!!」

アレスはフレクサーソードを構え相手が動くのを待った。その姿を見てミリオンはクスっと小さく笑った。

アレス「!?何がおかしい?」

ミリオン「おかしいですよ。あなたのような方が私と勝負をなさるのは。」

そう言った時突如ミリオンの姿が消え気付いた時にはアレスの後ろにいた。槍は構えていない。

アレス「フ、後ろか!!」

アレスは右腕の爪を後ろになぎ払う。だがその爪はミリオンを捕らえることはなかった。

ミリオンはもとの場所で片方の手のひらを顎に当ててアレスを見つめている。

槍は地面に刺していた。

スザク「!?速い!?」

ミリオン「あなたはすでに負けています。その証拠に、胸をごらんなさいませ。」

そう言った直後アレスの体が十の字に割れオイルが噴出した。

アレス「く・・・ぅ・・・いつのまに・・・ぐはっ。」

虎は倒れた。近くにいたヘルメスが静かに銃の充填を始める。

ミリオン「パワー、ガード、スピード、どれを取っても最低ランク。

     こんなデータ、使えないのは当然でしょう?なされるままに果てるだけ・・

     あなた方はこんな者を強者、そう呼ばれていたのですか?」

赤い影はレプラス達と無言で対峙した。


第59話 〜楚々〜



ミリオン「さあ見せなさい・・・あなたの全てを!!」

ミリオンはレプラスに槍を振り下ろす。地面が黒く焦げた。

レプラス「うわっ・・紫苑!どうしよ!?」

紫苑「・・・・・やるしかないみたい・・。レプラス、キュアエッジ!」

レプラス「あい、よー!!!」

青い閃光が矢のように発射される。だがその矢はいとも簡単に跳ね返された。

紫苑「連携攻撃が・・・きかない!?」

ミリオン「威力レベルB、新型と聞いてどれほどかと思っていましたが・・あなや。」

そう嘆き終わった時には既にミリオンはレプラスの背後に回り槍を突き出していた。

レプラスは腕を交差して受ける。直後ジュッと物が焦げた音がした。

レプラス「熱ッ!」

ミリオン「防御力、反応速度はBランク・・並レベルです・・か!」

叫ぶと同時にミリオンはレプラスの背中を蹴っている。恐ろしいスピードにレプラスはついていけなかった。

オシロイ「・・・・これはやばいかもな・・。」

ゲンブ「やばい!?・・・何不吉なことを言っているのですか!?」

スザク「だがこの状況だとさすがにそうなるぜ?オシロイ、どうにかならねーのか?」

攻撃した、と思った直後には既に別の攻撃が始まっている。

レプラスも全ての攻撃を受けている訳ではない。幾つかは間一髪で避けている。

ミリオン「スピードB、接近C、遠距離B、まだ本気では無いでしょう?」

オシロイ「勝てるかはわからないけど、考えがひとつある。」

ヘルメス「!?」

オシロイ「紫苑さん、レプラスは・・レプラスはどのくらいもちそう?」

紫苑「え・・どのくらいって・・」

レプラス「もうヤバイって!うおぉ!?」

オシロイ「仕方ない、イクシオン、オートロボトルだ!!」

イクシオン「マスター、まさかアレを試す気でごわすな?」

オシロイ「ああ。ゲンブ、スザク、ビャッコ、とりあえず僕の会社まで走るぞ?」

スザク「走るって・・・ここから会社まで何キロあると・・」

ゲンブ「了解です。急ぎましょう!!」

スザク「・・・・・・おい!待てこの!!オシロイ!

    何にもならなかったらお前ぶっ殺すからな!!この、待ちやがれ!」

走り去っていくスザク達を横目でレプラスは見送った。

レプラス「・・・・くっ!」

紫苑「レプラス、防御を重視に戦うよ!オシロイ君が何か考えているはずだから、

   それまでの時間を稼ぐの!」

イクシオン「おいどんもできるだけ援護するでごわす!」

ミリオンは指で数を数えながらイクシオンを見て残念そうにため息を漏らした。



チームワークは悪い方ではなかった。レプラスが攻撃を防御した隙を狙いイクシオンが援護攻撃、

矛先がイクシオンに向けば背後からレプラスが反撃を仕掛ける。

だが幾ら攻撃してもミリオンは全てを回避しダメージを受けていない。

こちらは激しく疲労しているに対し、息も荒くしていない。全く疲れていないのだ。

ミリオン「性能平均ランクC。攻撃範囲の広さが唯一の救い・・クス。」

イクシオン「笑っているのも今のうち・・・ダブルブレイク!」

イクシオンは両腕から重力攻撃を繰り出す。回避不可能と言われたイクシオンの必殺だ。

しかしミリオンの表情はむしろ楽しんでいる。そして一瞬にしてイクシオンの背後に回りこみ拳をお見舞いした。

ミリオン「命中精度A。少しは高い方ですが、攻撃後にスキが大きいですね。」

レプラス「くそ!リペアシューター!」

炎の雨が頭上から降り注ぐ。だがミリオンはこの雨さえも簡単に避けレプラスの肩を斬る。

肩の切れた部分は燃え上がり灰になった。レプラスのまわりに炎の渦が広がる。

レプラス「あぢゃぢゃぢゃ!!!・・・・・・くぅ・・。」

ミリオン「・・・・・クス。」

レプラス「わ・ら・う・なー!!紫苑、行くよ!!」

紫苑「オッケー!」

レプラスの体が金色に輝き始める。両手両足が放電し始め突風を呼び起こした。

口から握り拳ほどの電撃を出す。電撃はしだいに大きくなりとてつもない大きさに達した。

レプラス「プラズマショットー!!!」

ミリオン「・・・なるほど〜。」

ミリオンは笑顔のままプラズマショットに飲み込まれた。


第60話 〜友情〜



ミリオンは巨大な電気の玉を片手で押さえデータを解析している。

時間が経つにつれ玉は次第に小さくなりやがて自分の顔ほどの大きさになると

勢い良く握りつぶした。この状況下でもミリオンは息を整えたままである。

レプラス「メダフォースが・・・きかない!?」

ミリオン「それは間違いですね。多少・・装甲の数パーセントは削られました。

     ですが戦闘に支障はありません。」

イクシオン「だったらその削った部分に集中攻撃するでごわす!!」

イクシオンは右腕から重力攻撃を撃ち出した。ミリオンは槍を振り回し跳ね返す。

ミリオン「疲労82パーセント、熱量、装甲、ともに限界値。

     あなたがたは最終兵器を完成させるための鍵にはならなかった。これで終わり・・?」

その時突如ミリオンに突っ込んできたメダロットがいた。

両手に備えた爪で縦横無尽にミリオンに攻撃を与える。ミリオンはかろうじて防御を続けた。

メダロットは高く飛翔しミリオンから距離を取ると間をあけずに銃撃が来る。

ミリオン「!?」

槍を回転させ弾を全て斬りおとすと背後から影が迫り右腕に持ったサーベルを振り下ろした。

ミリオンは槍を横に寝かせ受け止める。槍は真っ二つに折れてしまった。

ミリオン「何事です!?」

スザク「戻ってきたのさ、無敵の虎が!」

黄色と青のボディに右にはサーベル、左手には頑丈そうな拳。

頭部はスミロドナッドを思わせる。脚部は少し太めだ。

アレスの後継機としてオシロイが密かに開発していたメダロット『タイガーハート』である。

アレス「侮辱した借りは返す!この牙でェ!!」

横にサーベルを振り払う。ミリオンは体を反り攻撃をかわす。

ミリオン「新型・・・数値も凄いですね・・。」

そうつぶやきながらミリオンはアレスから遠ざかる。後ろからさらに銃撃が続く。

ヘルメス「アレスにばかり良い所はとらせぬ!この機体でお主を葬らせてもらう!」

ウォーバニットを想像させるたてがみと盾のような部分の中心にそびえる大砲、

かぎなわのような左腕に頑丈そうな脚部、オレンジ色の機体。

こちらもオシロイが並行開発していた『ライオンハート』である。

ビャッコ「強くなったのは二人だけでないでやす!行けェディモーーー!!」

ディモ「おおおう!!!!」

両腕に備えた爪、するどい目つき、チーターのような縞模様、身軽そうな脚部。

ほかの新型2体と比べ装甲は薄いと見える。

これもオシロイが並行開発したチーター型メダロット『チーターハート』である。

ディモの姿は肉眼で確認できないが地面をズザザザと移動する音が聞こえてくる。

ヘルメスは縦横無尽に銃を撃っているようだが1発もディモとアレスに当たっていない。

アレスはミリオンを鬼神のごとく攻め続けている。

スザク「壊れろ!避けろ!いやははははははははは快感だぜェ?アレス、滅ッ殺!!」

ビャッコ「ディモは背後からでやす!」

アレスは前から、ディモは後ろから飛び掛る。

ミリオン「く・・・こうも攻撃が激しいとなると移動もできない・・くっ!」

ミリオンは上空に飛んだ。アレスとディモは頭をぶつけた。

ヘルメス「逃がすものか!」

ヘルメスはミリオンに5発ライフルを撃つ。その2発がミリオンに命中、落下した。

落下したスキを狙いアレスが再び飛び掛る。その時ミリオンの体が一瞬輝きアレスをなぎ払った!

アレスは宙返りしミリオンの反撃を回避、攻撃の風圧で近くにあったジャングルジムはズタズタになる。

ディモ「ぬぅ・・ホワット!?」

ヘルメス「気をつけよ!当たれば怪我ではすまないぞ!」

ミリオン「ご心配なく。これ以上戦う気はありません。状況はこちらが不利。

     ここはおとなしく帰りましょう。」

だが関係なくアレスは牙を光らせ突っ込んだ。ギリギリの所でミリオンは牙を掴んだ。

ミリオン「あなたは判断力が欠けているようですね・・この状況でまだ剣を向けるなど・・。」

再びミリオンの体が輝き始める。先程よりも輝いている時間が長くゆっくりと手に力を込めている。

レプラス「この輝き・・・・メダフォース!?」

ミリオン「クス・・・消え去りなさい!ヴォルカノン!」

カキィィィィィィィィィィイン・・アレスの牙のかけらが地面を転がった。

アレスを助けたのは銀色の双眸を持つメダロット、ハデスである。

ゴウカンも電柱の上でマントをなびかせミリオンを見つめている。

ミリオン「・・・・・ハデス・・・・様・・。」

ハデス「・・・・・・・・・ミリオン。」

ハデスは右腕の銃を構える。

ミリオンはその銃をしばらく見つめていたが少し経った後大空に飛んでいった。

レプラス「・・・・・・・・。」



夜の公園。あたりはすっかり静まり風の音がハッキリ聞こえてくる。

近くで虫が鳴いているのがわかる。ハデスは空を流れる星の一つを一人で見ていた。

ハデス「ミリオン・・・・お前・・・何のつもりなんだ・・?」


第61話 〜鍛鉄〜



ここはティンタウン南区のジャンクショップ、クリーチャー。

化け物というのは名ばかりで中は意外と片付けられている。

紫苑、レプラス、セイリュウ、ステルミアはここに通っている。

化物屋・・・もといジャンクショップのオーナー、ネムはパーツ整理に夢中。

セイリュウとステルミアはもうじきオリジナルメダロットが完成するのでその最終調整。

紫苑とレプラスは・・・昨日の赤いメダロットとの戦闘を思い出していた。

新型パーツクロスドラグーンを使っても能力差は歴然。

イクシオンとチームでやっても変わらない戦果。メダフォースさえも通じない。

カロン「何か・・・お困りのようですね?」

ネムと共に仕事をこなすメダロット、カロンは暗い顔をしているレプラスを覗き込んだ。

青い瞳の前にレプラスは少し頬を赤くし後ろへたじろいだが一瞬で表情はもとに戻った。

レプラス「まあ・・・ね。」

紫苑「・・・・。」

レプラスはテーブルに腕を広げて沈んだ。そこにネムの蹴りがテーブルを吹っ飛ばす。

当然レプラスはテーブルごと床に飛ばされた。

ネム「強い奴にギタンギッタンにやられたんだろ?ま、見りゃわかるって。」

レプラス「ネムさん・・・いくらなんでもいきなりは・・・ひどい。」

ネムは指でドライバーをクルクル回しながら笑って言った。

ネム「お前の機体は見てみりゃまだ公開もされてない新型だ。

   うちらジャンク屋には喉から手がでるほどに欲しい代物よ〜?」

カロン「(でもパーツの仕組みは完璧知っているじゃないですか・・。)」

ネム「・・・・・で、その負けたっていうメダロットの特徴とか名前とかってわかるか?」

ステルミア「・・・・・。」

ネムは棚から一冊の分厚い本を取り出しページをめくる。

本は所々黄ばんでいてページもボロボロ、かなり使い込まれてるようだ。

紫苑「赤とオレンジ色で・・・・槍を持ってて・・。」

ネム「ふんふん。」

恐ろしいほどのスピードでページをめくっている。

コンピューターが記憶しているデータを一片のキーワードを使って検索しているように見える。

レプラス「あとハデスがミリオンって言ってたよね?」

ネムはちらりとカロンを見た。カロンは視線をそらす。その動きに紫苑達は全く気がついていない。

ネム「赤にミリオンね〜・・その二つで思いつくのはヴァーミリオンかな?」

ページをバラバラめくりながら楽しげに言った。

紫苑「ヴァーミリオン?」

カロン「朱色は英語でヴァーミリオンと言うのです。ほら、朱色と赤色ってかなり似ているでしょう?」

レプラス「確かに・・でもそれが何だって?」

紫苑「あと炎を使ってきたよね。」

ネム「炎?おし、発見発見♪これだろ?」

カロンが起こしたテーブルの上にネムは本を置いた。

開いているページの一角には確かにレプラスと戦ったメダロットの写真が張ってある。

紫苑「!?あの、こ、これは!?」

ネム「情報屋から買ったんだよ。うちらジャンク屋は不思議なメダロットの情報を常に集めて回ってるからね。

   赤とオレンジ、槍を持ってる、二つのキーワードから来るメダはこいつしか無かったからねぇ〜。

   炎というのは意外だったな。メモメモっと。」

カロン「(・・・わざとでしょう・・?)」

ネム「(言うな言うな。)」

レプラス「相手を知ることが出来れば・・だいぶ戦いやすくなるね・・そうだよね?紫苑。」

紫苑「うん。ネムさん、このメダロットの情報はありますか?」

ネム「無い。」

即答だったためレプラスは思わずずっこけた。

レプラス「な・・無い?」

カロン「(山ほどあるくせに・・・)」

ネム「んなもんあったら欲しいって。」

レプラス「くっそ〜・・・・・だったらどうすれば勝てるようになれるんだろう・・。」

ネム「相手を知る前に自分を磨けって。戦う相手、殆ど初対面の奴らなんだからサ。

   だからそのパーツ、ちょい貸しとくり。」

ネムはクロスドラグーンのパーツを指差した。レプラスは驚きの表情を見せる。

カロン「・・・。」

ネム「オレが強化してやる。今の倍、いや5倍ぐらい強くなれるぐらいにな!?」

カロン「(ということはわざと手を抜いた・・・・ということだったか・・。)」

ステルミア「(ネム・・・要注意すべき人物ですね。

       未知の領域を開拓する強者・・・ただものではないです。)」



ネム「改造終了〜。んじゃレプラス、テストロボトルいこうぜ?」

レプラス「う、うん。」

セイリュウ「レプラス対カロン、ロボトルーファイ!!」

ジャンク屋の敷地の上でレプラスとカロンは対峙した。カロンは右手に包丁を持つ。

紫苑「レプラス、キュアエッジ!」

レプラス「あいよ!ぉぅ!?」

紫苑「!?」

レプラス「体が・・・・体が軽い!!!」

紫苑とセイリュウはきょとんとレプラスを眺めた。ネムはにやりと笑みを漏らす。

改造前には想像もできなかったほどの高さまでジャンプし上から青い閃光をカロンに投げつける。

瞬時に閃光の方向、速度を感知しカロンは真横に飛んで回避する。

紫苑「レプラス、格闘戦用意!」

ネム「カロン、ランチランチャー充填だぁ!」

カロン「ランチランチヤです!」

そう言いながら左手のかごを前に出す。そこにレプラスの蹴りが入る。

右に、左に、下から上に攻撃を繰り出すがカロンは全て受け流した。

即座にかごの底から刃が出、飛び越え様にレプラスの頭を一刀両断する。

だが粉々に砕け散ったのはカロンのかごの方だった。

カロン「(やはり装甲の差は否めませんか・・。)」

紫苑「レプラス、リペアシューター!」

レプラス「あい、よぉ!!」

レプラスは空に赤い閃光を投げつける。閃光は空中で拡散、

雨のごとく地上に降り注いだ。

カロンは頭部パーツ『レッドクリフ』の効果で周囲に爆発を起こさせる。

紫苑「!?」

ネム「カロンの性能じゃぁさすがに雨を避けることはできねぇ。」

爆発の煙の中でカロンは姿をくらませながらレプラスに近づく。

カロン「火を爆発によって消す、という方法があります。

    同じく、あなたの雨も当たる寸前に強力な爆発を起こせば防御、無効も可能。」

煙の中からカロンが飛び出しレプラスに包丁を突きつける。

レプラス「速ッ!?」

カロン「てぃやー!」

カロンはレプラスの体と肩の付け根部分を切りつける。

レプラス「ぐっ!・・・くらえ!」

攻撃後の隙を狙いレプラスがカロン目がけて拳を繰り出す。カロンは包丁を横に寝かせて受ける。

それでも衝撃は大きかったらしく両足を地面につけたままいくらか引きずった。

カロン「ぅ・・・・。」

ネム「よーし。カロン、だいじょぶかぁ?」

カロン「問題・・・ありません。」

ネム「で?どうするレプラス?まだ続けるか?」

レプラスは繰り出した拳を元に戻し静かに首を振った。

セイリュウ「ロボトル終了!」

レプラスは自分の力を確かに感じ取っていた。改造前と比にならない自分の強さを。

レプラス「いける!これならいける!!」

カロン「・・・・。」

レプラス「あ、そうだカロン。」

カロン「・・・?」

レプラス「あのさ・・初めてカロンとロボトルしたけど・・カロンて強いね!

     多分ジ・エンシェントだったら・・僕は負けてたな。」

カロン「クス。そう言って頂けると嬉しいです♪またやりましょう?」

レプラス「うん!」

レプラスとカロンは互いに固く握手した。



夜のジャンク屋クリーチャー。昼でもここはある程度暗いのだが、

夜になると一層暗さが増す。野良犬の遠吠えも聞こえてくる。

虫を嫌ってか、電気をつけずにカロンとネムは星を眺めていた。

店は既にシャッターが下りている。

カロン「レプラス・・・・どんどん強くなっていきますね。」

ネム「まぁな。結構いい働きをしていると思うのだが・・お前はどう思う?」

カロン「バニジンガルムを倒すほどの力を持った。後はミリオンをも凌ぐほどになってくれれば・・。」

ネム「難題だねぇ・・そこまでなれるかなぁ?

   お前だってその強さ、たった何週間かで築かれたものじゃないんだろ?」

カロン「それは・・・そうだが。」

ネム「ま、今は気長に待つしか無ェよ?現時点の問題はレプラスじゃない。他の奴らだ。」

カロン「・・・・・あの五連星か?」

ネム「正確には四連星かもな。少し駒を進めておく必要があるかもしれん。」

カロン「・・・・だな。」

ネム「さて、では今日も夜の旅に出かけますか。敵さんもマメだからねぇ・・。

   こんなによく出没するのにどこに消えていってるのかわからないとは。」

カロンはパーツを交換し、ネムは黒いシルクハットをかぶり夜の闇に消えていった。

その様子を小高い家の屋根から眺めていた緑色のメダロット、フォストは二人から空に視線をずらしつぶやいた。

フォスト「花はいつかは枯れる。」

その言葉を聞いたときすでにフォストの姿はどこにもなかった。


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