戻る
第1章 少女とメダロットと・・・

第1話 〜快盗〜

ここは都会から少し外れた場所にある決して大きくない町、クルス町。

だがメダロットを戦わせるロボトルの技術が優秀な者が多く、全国で注目が浴びられている。

そのため学校も国から補助がでているらしく設備が充実されている。

放課後、小学校のグランドで大勢の観客に囲まれ2人がロボトル(バトル)していた。

職員室の先生達も数人窓から観戦している。



少年A「いけぇ!そこでライフル発射!」

メダA「了解、マスター!当たれッ!」

少年B「バックステップでよけて反撃だ!」

メダB「了解!はァっ!」

メダA「マジかよ!?うわっ」

メダB「覚悟ッ!ソード!!」

グサッ!キュピィィィィィイン

メダAの背中からメダルが飛び出した。こうなった場合メダルが出た方は機能停止、つまり負けを意味する。

少年A「そんなぁ・・・はい、パーツ。」

少年B「ありがと。」

負けた方は所持しているパーツを一つ勝者に渡す。それがこのロボトルのルールであり、メダロットが世界に普及した理由の一つでもある。

少年C「おっしゃ!今度はわいが相手や!覚悟せぇ!」

少年B「いい度胸だね。じゃ、いくよ!!」



一人の少女、浜万 紫苑(はまゆう しおん)はその集団を見ずに帰り道を急いでいた。

紫苑はメダロットを所持していないからである。この町でメダロットを所持していない小学生は紫苑だけ、といっても過言ではない。

その紫苑の後を追う少年が二人。一人は少し赤混じりの髪で枝毛が多い。もう一人は反対に青混じりの髪に胸にメダルの形をしたバッジをつけている。

青髪の方は「美少年」の領域に入る俗に言う「かっこいい」の部類に入りそうだ。

青髪「ちょっとスザク君!いいかげんやめなさいよ!!」

スザク「うるせーナンバー2!いつもいつもうるさいんだよ!!」

赤い髪の少年は賀宴 スザク、青い髪の方は黒松 ゲンブというらしい。

ほかに紙魚崎(しみざき)ビャッコ、立甲(りっこつ)セイリュウと4人でトーテムポールズを結成している。

そのトーテムポールズの中でもスザクは200戦200連勝の実力を持つトーテムポールズナンバー1、いや、この町ナンバー1の実力を持つ。

スザクはメダロットを転送、ちょうど紫苑の真上にあった木を発砲した。

弾は木に命中、上から毛虫がウジャウジャ落ちてきた。

紫苑「きゃあああ!!!」

グランドでロボトルしていた集団も声がした方を振り向いたがスザクの顔を見るなりすぐに視線を戻した。

紫苑は涙目でスザクをにらんだ後グランドの外へ走り出した。

スザク「はっはっはー!いや〜爽快爽快ぃ♪おぐ?」

ゲンブはスザクの服の襟をつかんでにらんでいる。

スザク「なんだよナンバー2。」

ゲンブ「そのナンバー2というのはやめてくれませんか?いつもいつも紫苑さんをいじめていいとでも思っているのですか?」

スザク「メダロットを持ってない奴なんかどう扱ってもいいだろ?」

ゲンブ「紫苑さんも一人の友達です。友達は大事にしましょうと先生達も毎日言っています。」

スザク「そんなこと言ってたかぁ〜な?お前のそういう所が気に入らねーなぁナンバー2。」

ゲンブ「スザクに言葉では何を言っても無駄ですね。ではこれであなたが間違っていることを証明しましょう。」

ゲンブがメダロッチを構えた。メダロッチというのは自分のメダロットを呼び出すための装置が内臓してある腕時計である。

ゲンブ「今日こそあなたに勝って僕がトーテムポールズのナンバー1になります!!」

スザク「勝てるならな・・・ナンバー2」

スザクもメダロッチを構えた。



紫苑はグランドを自宅まで走った。自宅の3つぐらい前の交差点に差し掛かった時、前からパトカーの音がしてきた。

紫苑はパトカーに乗っている警察官に声をかけられた。

警察官「君!この辺に全身黒い格好した男がこなかったか?」

そんな男、たとえ無我夢中で前を走っていたとしても見かければすぐに気がつく。だが見ていない。

警察官「そうか・・・くそッ!この辺にはいないのか?」

パトカーはすぐにまた走り出した。

紫苑「ドロボウかな・・・・?」

今ので気も落ち着いたらしく走るのをやめて家まで歩いて帰った。



紫苑は家に入ろうと玄関フードのドアを開けた。ふいに後ろから誰かに見られている気がしたので振り返った。

しかし誰もいなかった。

紫苑「気のせい・・・だよね?」

紫苑は玄関フードに入った。突如天井が呼びかけてきた。

???「気のせいではないぞ少女よ。」

紫苑「!?」

紫苑は天井を見た。するとそこには身長170センチくらいのノッポの全身黒い格好をした男が張り付いていた。

顔には白い仮面をしている。仮面には丸い穴が二つ、下向きの三角形の穴が一つある。

紫苑「ど・・・どろ・・」

???「しぃーーーー!!!静かにしてくれたまえ!私は決して怪しい者ではない!」

紫苑「(充分怪しい!!)」

???「まあ、話を聞きたまえ。私の名はゴウカン」

ゴウカン「先程、ご近所のおばさんが燃えるゴミと書かれたゴミ袋にタブがついたままの空き缶を入れてゴミステーションに捨てたのだ。」

確かにゴウカンの手にはゴミ袋が握られている。袋には数え切れない程のタブがついたままの空き缶が入ってるのが確認できる。

ゴウカン「この空き缶のタブは主に車椅子の材料にリサイクルできる『資源』なのだ。それにこの空き缶は燃えるゴミではない。

     そこで自宅まで持ち帰って分別しようと思ったのだが途中で警察に見つかり追われていたというわけだ。」

紫苑は呆れて叫ぶ元気も無くなっていた。表情からもそれが読み取れる。

ゴウカン「そして君が警察をまいてくれたのだ。君は命の恩人だ。」

紫苑は何がなんだかよくわからなかったが恩人と言われて少し嬉しかった。

ゴウカン「そこで私からプレゼントだ。手を出したまえ。」

紫苑はゴウカンの前に手を出した。ゴウカンはその手の中に正六角形の黄色い石を置いた。

紫苑「これは?」

ゴウカン「メダロットにはめ込むメダル。いわば頭脳。」

紫苑「私は・・・メダロット・・・やるつもりは・・・。」

ゴウカン「このメダルは君にもらってもらいたい。ん」

ゴウカンは口を閉ざし、遠くからこちらに向かってくる音に耳を傾けた。ゆっくりではあるが、パトカーのサイレンがこちらに近づいている。

ゴウカン「すまぬ。別れの時間だ。」

ゴウカンは玄関フードを飛び出し、サイレンが聞こえてくる反対の方向へ走り出した。



しばらくして遠くの方でサイレンの音が絶え間なく響きだした。

紫苑はもう一度受け取ったメダルを見つめた。

上の方に赤い丸い石がついていて、宝玉をつかんだ龍の絵が描かれている。

紫苑は空の流れる雲を数秒見て家の中へ走りこんだ。


第2話 〜始動〜 



紫苑「ただいまー」

ママ「おかえりー」

紫苑はいつものように靴を脱いだ。その時あることに気づいた。

紫苑「あれぇ?パパ帰ってきてる?」

ママ「帰ってきてるよ。はやくカバン置いてきなさい。」

紫苑は自分の部屋にカバンを投げいれた。パパが帰ってくるのは3ヶ月ぶりのことである。

紫苑のママは午前中コンビニで働き、午後は自由、パパはメダロット研究所でメダルの研究をしている。

メダルの研究は一段落終わらせるのに何ヶ月もかかるうえに終わりなき仕事なので家にはほとんど帰ってこない。

今日は仕事が一段落ついたのか、早く家に帰ってきている。



今日の晩御飯はゴハン、味噌汁、漬物などの完璧和風メニュー・・・とプラス小さいケーキ。

紫苑「ケーキ?」

パパ「今日は紫苑の9歳の誕生日だろ?」

紫苑「(覚えててくれたんだ・・)」

数週間前パパが研究所から「今度も帰るのが遅くなる」と連絡してきた時に伝えたことがある。

研究以外のことは忘れやすいパパが覚えてくれたことは大変珍しいことである。

パパ「あ、そうそう、誕生日プレゼントは気に入ったかい?」

紫苑「プレゼント?」

紫苑は箸を持ったまま目を丸くして聞き返した。

パパ「机の上に置いたよ?なんなら寝る前に見てみなさい。」

ママ「ママもあれは紫苑にピッタリだと思うわぁー♪パパもやっとまともなもの買ってきたのねー♪」

パパ「おいおい・・・なんだよそれは・・いつもまともじゃないのかい?」

ママ「ぬいぐるみや食べ物よりはいいと思うわよ?」

パパ「そ、そうか?う〜む」

パパは少し顔を曇らせた。ママは最高の笑顔で微笑んでいる。

紫苑「(・・・・なんだろ)」

その日紫苑は少し早めに食事を平らげた。



紫苑は部屋の机を見てビックリした。その上には大きな箱があり、一緒に手紙と工具セットも置いてある。

紫苑「・・・・・・?」

箱には大きく龍の絵が描かれそれを象徴するかのごとく大きく書かれた文字「MEDAROT」

紫苑「・・・・・メダロット?」

紫苑はとりあえず箱を開けながら手紙を取って読んでみた。

目の前には青と白が目立つ骨組み「ティンペット」がある。



手紙にはこう書かれている。

(パパ「紫苑もそろそろいいかな〜と思って買ってきたぞメダロット。

    でもメダルは売り切れだったんだーゴメン!!研究所のメダル使うわけにもいかんし・・。

    メダルは自分で買ってくれ。お金そこの封筒にあるから」)

箱のとなりに白い封筒が置いてある。

紫苑「あ、コレか。」

(パパ「とりあえず今日はメダロットの説明書をまず読んでくれ。

    パーツとかは既に組み立てられてるセットを買ったから心配ないぞ〜♪」)

でも実際はティンペット、パーツそれぞれは組み立てられているがティンペットに装着はされていない。

どうやら装着は手動か、または・・

紫苑「この腕時計で登録して転送させるんだね。」

メダロッチの説明書を見ながら紫苑が言った。メダロッチをもう腕にはめている。

(パパ「メダロッチの基本情報は買った時に登録したぞ。あとはパスワードなどを入力すれば万事OK♪」)

紫苑「パパって手紙の時だけ言葉おかしくなるんだよね・・。いつも無理してるのかな?」



紫苑は説明書をなんども目読している。

紫苑「えっと・・・パーツの登録は・・パーツの形式番号、パスワードを入力・・パスワード?」

説明書:パスワードはメダロッチの箱に同梱されているプラグをメダロッチとパーツの関節部分にある端子と接続すれば調べられる

紫苑「接続・・・・・・?」



そんなこんなで登録が完了。ティンペットにパーツは装着させた。あとはメダルだけ。

時計を見ると既に11時。

紫苑「メダルをいれるのは明日にしようか・・。明日は休みだし。」

紫苑はベッドに入り眠りについた。急に静かになったその部屋はいつもの夜と変わらない雰囲気である。

だが唯一いつもと違うのは部屋の隅で赤や金、水色に光る龍が無言でたたずんでいることである。

机に置かれたメダルは紫色の光を出し始めた。光はまるで生きているかのごとく天井を走り回っていた。

だが深い眠りについている紫苑はそのことに気づくはずはない。



紫苑の家の屋根の上に黒いマントをなびかせた男が闇に隠れて中の様子を伺っている。紫苑にメダルを渡したあの怪盗ゴウカンである。

その横に音も無く空から着地するメダロットが1体・・恐らくゴウカンの使用メダロット、白銀の機体は闇にはあまり似合わない。

???「ゴウカン、ついに奴らが動き出した。皆この町に向かっている。」

ゴウカン「そうか・・・来るとは思っていたが・・少々遅かったな。」

???「地上の奴らに知られるとやっかいなことになる。特にあの集団に知られると・・。」

ゴウカン「焦る必要は無いさ。奴らもそのことは知っておろう?」

???「まーな。だが準備ぐらいは必要ではないのか?」

ゴウカン「準備・・・か。私もそのくらいは承知している。丁度今その準備とやらが終わったところだ。」

???「あのドラゴンメダル・・・もしやこの家に?」

ゴウカン「うむ。いい働きをしてくれるだろう。・・・・・・む?」

???「この音・・サイレンですね。またですか。」

ゴウカン「長居は無用・・・だな。ハデス、風の翼用意。」

ハデスと呼ばれたそのメダロットは即座にパーツを交換、飛行形態へ変形、ゴウカンがその上に乗る。

漆黒のマントと白銀の流れ星は闇の中へと消えていった。


第3話 〜誕生〜



窓から太陽の光がカーテンを越えて部屋の奥へと差し込んでいる。

外では小鳥が歌い、風が舞う。いつもと変わらない休日の朝が訪れた。

紫苑はベッドの中で目を覚ました。まぶしい光を手のひらで遮ながら視線を小鳥に向ける。

紫苑「おはよう♪今日もかわいいね。」

窓を開けて指を出すとその指に小鳥が止まり軽くキスをした。

小鳥は再び空へ舞い戻り、紫苑は見えなくなるまで見送った。何かを思い出したように部屋を見渡す。

部屋の隅の静かな空間に溶け込むメダロットを確認する。

昨夜発していた光はどこかに消え失せている。

外から紫苑を呼ぶ声が聞こえる。

セイリュウ「紫苑ちゃーん、あっそぼー!!」

ステルミア「おはようございまーす。」

黄緑色の髪とミニスカートが目立つトーテムポールズの一番格下のセイリュウと、

セイリュウの愛機、青龍型のメダロット、ステルミア。製品名はロンガン。可変型で回復のエキスパートである。

青龍繋がりなのは親の影響があるらしい。

紫苑「おはよー。上がってー♪」



紫苑は二人を部屋に招きいれた。ステルミアが部屋の奥のメダロットに気付く。

ステルミア「おや。紫苑様もメダロットを購入されたのですね。」

紫苑「うん。昨日登録が終わったの。」

セイリュウ「メダルはあるんだね?いれてみようよ。」

紫苑「攻撃とか・・・はしないよね?」

ステルミア「大丈夫。私達にはメダロット三原則というものが掛けられており、人を故意に攻撃できないようになっています。

それに万が一のことがあっても私が守りますよ。」

紫苑「ほんとに?」

ステルミア「ええ。」

紫苑「じゃあいくよ・・・・それ!」



紫苑は龍の背中にゴウカンからもらったメダルをはめ込んだ。龍が金色に輝き天井へ一本の光の棒を献上する。

水色、青、赤と虹色の光が後に続き、部屋は数秒光に包まれる。

紫苑「す、すごい・・。」

セイリュウ「最初の誕生はどれもこんな感じだよ。もちろんステルミアの時も。」

光が収まり、部屋はもとの静けさを取り戻したかに思うと龍の緑色の目が青色に変化した。



龍は紫苑の方を見ると楽しげに言った。

????「ふわーーーーーぁ。外の世界は久しぶりだな〜。」

紫苑「しゃべった・・?」

????「おはよう〜君が僕のマスター?」

紫苑「うん。私は紫苑。あなたは?」

????「僕の名前は・・・・・あり?僕の名前ってなんだっけ・・・・・・・まぁいいや。

     紫苑、僕の名前付けてくれる?」

紫苑「名前?え〜となにがいいかな・・・。」

『レプラス』

紫苑「あなたの名前はレプラス!!」

レプラス「レプラス・・・・いい名前だ〜。気に入ったよ!」

ステルミア「では名前が決まったところで公園に行きましょうか。」

レプラス「公園?」

ステルミア「仲間がいっぱいいますよ。まずはこの町内のメダ達に軽く挨拶といきましょう。」

レプラス「ところで君は?」

ステルミア「私はステルミア、そしてこちらが私のマスター、セイリュウ。以後よろしく。」

レプラス「よろしく!」

レプラスとステルミアは固い握手を交わし、紫苑の家を後にした。


第4話 〜初陣〜



公園には数多くのメダロットとそのマスター(メダロッター)がいる。

ロボトルしているのがいれば、ベンチで話したり、砂場で遊んでいるメダロットもいる。

その中心部にあるジャングルジムの前ではスザクとビャッコがロボトルしていた。ゲンブはジャングルジムの頂上で観戦している。

スザク「なかなかやるようになったじゃねぇかナンバー3!でもまだまだだなぁ!!?」

ビャッコ「スザクが強すぎるんでやす!少し手加減してくださいよ!」

スザク「手加減なぁ〜?バク転3回ィィィィ!そんで開脚後転ッ!」

ビャッコ「余計当たらないでやす!」

ふいにゲンブがジャングルジムから降りて公園の外の方に歩き出した。

スザク「どうしたナンバー2。見ねぇつもりかよ?」

ゲンブ「客人に挨拶してきます。」

スザク「(客人ぃん?)としまった!前方宙返り!」

ビャッコ「だぁああ!もう!もう少しで当たったのにでやんす!」

スザク「あぶねぇあぶねぇ・・。」



ゲンブの向かった方向に紫苑、レプラス、セイリュウ、ステルミアが公園の様子を観察していた。

ステルミア「いつも以上ににぎわっていますね。」

レプラス「スゲぇな〜。お、ロボトルしてる。あっちは教科書読んでるな。」

紫苑「公園はみんなのいこいの場だからね。あ、ゲンブ君。」

ゲンブは軽く会釈してレプラスを一瞥(いちべつ)した。

ゲンブ「おはようございますお二人さん。今日もロボトル日和ですね。こちらは?」

紫苑「私のメダロット、レプラス。昨日パパに買ったばかりなの。」

レプラス「よろしくー!あり、お前のメダロットは?」

ゲンブ「見ますか?メダロット転送。」

ゲンブの声と同時に天空から青い稲妻が地上に落ち長いたてがみを持つメダロットが現れた。

製品名はウォーバニット。左右に装備されたライフルとマシンガンが主力の軽装備メダロットである。

ゲンブ「こいつはヘルメス。僕の相棒さ。」

ヘルメス「それがしはヘルメス。以後お見知りおきを。」

レプラス「よろしく!」

ヘルメス「さて、レプラスとやら御免こうむってお願いがあるのだがそれがしとロボトルしてくれぬか?

     新手の実力、この体に刻み込んでおきたい。」

レプラス「ロボトルか?よっしゃぁ!相手になってやる!」

紫苑「え、ちょ・・・ちょっと初めてなのにゲンブ君と戦うの!?」

ゲンブ「大丈夫、初心者に挑戦してパーツを根こそぎ奪うなど愚かなことはしませんよ。」

ヘルメス「パーツのやり取りは無し、百も承知。」

ステルミア「決まりですね。ではロボトル・・・・」



待てやッ!!

スザクとビャッコが突如割り込んできた。

スザク「ぬけがけは許せねぇ〜なぁナンバー2。」

周りの空気が穏やかな雰囲気から緊迫した空気へガラリと一変した。ゲンブの表情も険しくなる。

ゲンブ「何用ですか?僕は既に紫苑さんにロボトルを申し込んだのですよ?」

スザク「パーツのやり取り無ェロボトルなんざやってもおもしろか無ぇっての。おいナンバー3。」

ビャッコ「あい!?」

スザク「お前こいつとロボトルしろ。勝てば昇格、お前をナンバー2にしてやる。」

ゲンブ「なに・・・?」

ビャッコ「スザクそれは本当でやすか?」

スザク「おうよ。こんな気が合わねェ奴がナンバー2でもつまらねぇだけだ。それに・・紫苑なんざどうせ弱いんだろぉ?

    パーツも増えて一石二鳥だなぁ。」

スザクはゲンブをちらっと見て答えた。

レプラス「弱いとはなんだよ!」

ビャッコ「了解でやす。絶対勝つでやす!来い、ディモー!!」

レプラス「無視かよ!」

絶叫に応えるかのごとくジャングルジムの方から土煙を撒きながらレーシングカーが突っ込んできた。

レーシングカーは変形、1体のメダロットになった。

製品名ランドローター。パトカーをモチーフとし、脚部のタイヤで高速移動できる。特に空中、水中のメダロットに対して強力な武器を装備している。

レーシングカーはレプラスに向かって叫んだ。

ディモ「我輩の名はディモ!虹色の龍よ、マスターの命によりお前をデストロイする!!」

スザク「もちろんパーツのやり取りはアリだ。」

紫苑「逃げても無駄なんだよね・・・」

ディモ「逃げる!?敵を前にしてエスケープすると言うのか?」

レプラス「誰が逃げるか!!紫苑、こうなったらコイツを先に倒そうぜ!?」

紫苑「う、うん!」

スザク「決まりだなァ。じゃあロボトルファイトだ!」



レプラスは紫苑の指示を待つ。紫苑はゲンブ、セイリュウの助けを借りながら冷静に状況を確認する。

その向かいに茶色の髪に赤いゴーグルをつけた少年ビャッコはメダロッチを構えたままレプラスを凝視している。

ディモはいつでも動けるように構えている。

紫苑がレプラスに小声で問う。

紫苑「レプラスの攻撃方法は何?」

レプラスがまた小さな声で答える。

レプラス「右腕で設置してから左腕で使用するクロスファイヤー・・。頭は緊急時の回復パーツだよ。」

紫苑「わかった・・・いくよ、レプラス!」

レプラス「よっしゃあ!!」

ビャッコが先制攻撃をしかけた。

ビャッコ「ディモ、ハンドルアーム!!」

ディモが左腕を構え、ミサイルを発射する。だがミサイルはレプラスの一歩手前で爆発、大きな煙を広がせた。

ディモ「やはりこの機体では決定的ダメージは与えられぬな・・。」

紫苑「レプラス!キュアウォーター!リペアスプリング!」

レプラス「あいよ!!」

レプラスが右腕を振り上げディモの足元に赤いボールをばら撒く。そしてボールから砲台が飛び出しそれらが一斉に火を吹いた。

ディモを赤い爆炎が包み込み、ビャッコのメダロッチから非情な通信が届いた。

通信「ディモ、頭部ダメージ94、右腕ダメージ100、左腕ダメージ100、脚部ダメージ66、戦闘不能、戦闘不能。」

メダロッチ一つ一つにこのような声が登録されており、その状況時のメダロットの情報を瞬時にメダロッターに伝えることができる。

この際言う数値は割合を示しており、94なら装甲の94パーセント、66なら装甲の66パーセントが損傷した、ということになる。

ビャッコ「な゛ッ・・・たった一撃でこんなダメージでやすか!?」


第5話 〜新手〜



スザク「な〜るほど・・・一発の威力がデカイ連携攻撃か〜・・・。」

レプラスの使用したクロスファイヤーはもともと働きアリ、兵隊アリ型のメダロットが2体1セットで繰り出す技である。

2体が協力して行うので、「連携攻撃」「クロスファイヤー」などの名称がつけられた。

それを1体だけで可能にしたのがレプラスの機体「ジ・エンシェント」である。

スザク「ナンバー3はナンバー3の実力しか出せねぇか・・見当違いだったみてぇ〜だなぁ?」

ゲンブ「さあもういいでしょう。私の番ですよ。」

スザク「いやオレが出る。」

ゲンブ「スザク!?」

レプラス「なんだよ?まだやるのかよ?」

スザク「おーよ。」

ヘルメス「くぅ・・アレスが来るならそれがしは勝てぬ・・。」

レプラス「アレス?」

スザク「オレのメダロットの名さ。戦の神アレス、来い!!」

スザクの声とともに大空にはびこる影一つ。右手に伸びる長い爪を振り回しながら着地する。

製品名スミロドナッド。3,4年前開催された世界大会で優秀な成績を残した辛口コウジの使用メダロットとして有名。

右の爪、左のハンマーは破壊力がバツグン。頭部パーツ「ハンター」は射撃メダロットに絶対の威力を発揮する罠を周囲に設置できる。

アレス「今度の相手はそいつらか。」

セイリュウがそっと紫苑の耳に話しかける。

セイリュウ「スザクはビャッコのようにはいかないよ。スザク・・・強いから」

でも紫苑の心は希望と不安が交差していた。もちろんまだ一週間もしてないロボトルの腕でスザクと戦っても勝てる可能性は低い。

だがここで勝てば念願の日頃のイジメなどの復讐を果たすこともできる。

レプラス「紫苑、はやくやろう!」

紫苑「レプラス?」

レプラス「なんていうか・・・コイツ、気にいらないよ。紫苑のことをバカにしてるみたいじゃないか。」

アレス「・・・・。」

レプラス「紫苑をバカにする奴・・・僕はそんな奴、許せない!!」

紫苑「レプラス・・。うん!やろう!!」

するとアレスはレプラスに聞こえるように、スザクには聞こえないように小さくつぶやいた。

アレス「たいした友情だ。オレもそのくらいマスターと結びつきたいものだが・・。」

レプラス「・・・・・?」

スザク「なにか言ったかアレス?さっさと刈る準備をすれ。」

アレス「了解した。」

レプラス「・・・・・・・・・・・。」



辺りはあんなにいた子供達がすっかりいなくなり、冷たい風だけが公園を走っている。

あれほど高く上っていた太陽も今は静かに地平線へ沈みかけている。

公園は感動を呼び寄せる夕焼けに包まれる。

ステルミア「では・・・ロボトルー・・・・ファイッ!!」


第6話 〜猛虎〜



夕焼け色に満ちた公園はしばらく無音の空間に包まれる。

先に攻撃したのはレプラスの方だった。

紫苑「キュアウォーター、リペアスプリング!」

レプラス「先手必勝!!」

ディモを一撃で葬り去った爆撃がアレスを襲う。だがアレスは横に跳ねてそれを回避。

アレス「先手必勝?違うな。」

紫苑「レプラス、どんどん攻撃して!」

レプラス「放熱がまだだよ!」

紫苑「放熱!?」

メダロットの各パーツにはそれぞれパーツを使用可能にするまでの充填時間、

行動後内部に蓄積された熱を外に放出し、パーツを完全に冷却させるまでの放熱時間が必要である。

充填しきれていなくてもパーツの使用は可能だがそのパーツの100パーセントの力は発揮できない。

放熱しきれていなくても連続で攻撃は可能だがやりすぎるとオーバーヒートしてしまう。

オーバーヒートすると蓄積された熱が完全になくなるまでパーツの使用がほぼ不可能になる。

オーバーヒートした状態で無理にパーツを使おうとすれば内部の熱によりパーツは粉々に破裂する。

破裂した場合パーツの修理が不可能となるほか、メダルにも影響を及ぼすこともある。

メダロットは半永久的な命を持つが、人間同様、自分の体に無理をさせてはその分代償も大きいということだ。

レプラスの場合、右腕のキュアウォーターは充填に8秒、放熱に4秒、

左腕のリペアスプリングは充填に10秒、放熱に5秒かかる。

戦闘開始直後はどのメダロットも充填が完了している状態なのでレプラスの長い準備時間は必要なかった。

スザク「先に攻撃した方は放熱に時間を取られ、防御が手薄になるんだぜぇ?」

アレス「お前の放熱時間は最低でも5秒。反面、オレのパーツの充填時間は1秒だ。」

紫苑「1秒!?」

レプラス「だからどうだってさ。もうこっち放熱完了したよ。」

アレス「だからなんだ?まだお前の攻撃はあと10秒かかる。」

紫苑「うっ・・・。なにかほかに攻撃方法は・・。」

スザク「格闘パーツ以外で格闘することも可能だけどなぁ、お前らのパーツはそこまで衝撃に耐えられる構造になってにゃいねぇよ。」

紫苑「レプラス、充填完了まであと何秒?」

レプラス「あと5秒!4・3・2・1・充填完了!紫苑、いく?」

紫苑「待って!」

レプラス「え?」

アレス「ほう?攻撃してもよけられるからか?」

紫苑「キュアウォーターだけ使って!」

アレス「何?」

レプラス「え!?と連携攻撃設置!」

アレス目がけてレプラスは赤いボールを数個投げつけた。アレスはそれを難なく避ける。

紫苑「キュアウォーター放熱及び充填!」

レプラス「???あいよ!」

アレス「スザク、指示はまだですか!?」

スザク「こんな奴いつでも倒せるって〜の。まだ待機。」

アレスは少々怒り気味だったが感じられないように顔をレプラスの設置したボールの方に向けた。

アレス「・・・・・。」

紫苑「キュアウォーター!」

レプラス「あいよ!!」

レプラスは再度連携攻撃を設置した。アレスはまたそれを避ける。

レプラス「連携攻撃の赤いボールだけじゃ当たらないよ、紫苑!」

紫苑「これでいいの!続けて!」

紫苑とレプラスは連携攻撃設置を繰り返し、アレスはそれを避け続けた。

その繰り返しが長い時間をかけて行われていた。



ついにあの男はアレスに指示を出した。

スザク「飽きた。アレス!次のボールをかわしたら右腕で敵を刈ってやれ!」

アレス「了解。」

レプラス「連携攻撃!」

レプラスは赤いボールを投げた。アレスは静かに跳躍し、右腕の充填を開始する。

だがアレスは地上に着地した途端

アレス「おうっ!?」

足を滑らせ転びだした。

レプラス「!?」

スザク「どうしたアレス!!・・・あれはぁ!?」

レプラスの設置した赤い球体、連携攻撃が円を描くように転がっている。

ドーナツの穴の中にアレスがいる、と言った方がわかりやすいだろうか。

アレスが転んだのは連携攻撃、赤いボールを踏んだからである。

紫苑「リペアスプリング、発動ー!」

レプラス「おっしゃー!」

50個はある赤いボールから一斉に砲台が伸び、ディモの時と比べ物にならない真っ赤な爆炎を空に散らす。

ディモがこれを受ければおそらくティンペットにも少々被害がでるだろう。

レプラス「僕と紫苑の勝ちだな!!?」

だがスザクの顔は笑っている。まだ負けていないという気持ちが感じ取れる。



オレンジ色の空を染める赤い煙。その中から飛び出た黒い影。

紫苑「レプラス、上!!」

レプラス「え!?」

流れる風をかき分けながら天空から負傷した虎が爆風と共に舞い落ちる。

アレス「おおおおおお!!!!!!!!」

アレスはレプラスに向かって左腕を叩き落とした。レプラスは両手でそれを防御する。

レプラス「ぬわっ!!?」

紫苑「あ!」

メダロッチ「キュアウォーター、リペアスプリングダメージ共に100、両腕使用不能。」

アレス「これであの変なボールは出せないな・・・・。」

ひび割れた装甲や所々ティンペットがむき出しになっている機体を見ればとてもまともに動けないとは思うがアレスは自然に言った。

彼はなにも痛さを感じていないようである。いや、痛さをこらえているのだろうか?

スザク「でかしたぜアレス!よぉ〜紫苑、攻撃方法が無くなればアレスには絶対勝てねぇ〜な〜。」

スザクは満面の笑みを浮かべながら紫苑に言った。しかし紫苑の顔は変わっていない。

紫苑「レプラス、その尻尾を振り回す!」

スザク「尻尾!?」

レプラス「え・・・あ、脚部についてるコレか。それ!」

レプラスは脚部の尻尾を振り回した。目の前にいたアレスは掟破りの攻撃に反応できず尻尾の連打をもろに受ける。

右に、左に、アレスは尻尾のビンタを何往復もまともに受けた。

紫苑「レプラス、やめて!」

レプラス「あいよ?」

尻尾を連打するのをやめた。たちまちアレスは片膝をついて顔を下に向ける。

キュピィイイン

アレスの背中から1枚のメダルが飛び出した。これはスザクの負けを意味する。

ステルミア「勝者、レプラス!!」

少人数ではあるが紫苑のまわりに歓声が轟いた。喜んだのはゲンブ、セイリュウ、紫苑、

反対にくやしがったのはスザクとビャッコ。

スザク「覚えていやがれ!!!いくぞナンバー3!」

スザクはアレスを持ち上げると公園を走り去っていった。ビャッコもそれに続く。

ゲンブ「スザク!ビャッコ!パーツを置いていきなさい!」

スザク「そこに置いてるっつーのヴァーカ野郎ッ!!」

紫苑「あ、これか。」

見るとパーツが二つ捨ててある。

アレスが使用した左腕「ストローハンマー」ディモが使用した右腕「ハンドルハンド」である。

レプラス「でもさ〜二つとも壊れてるってのはどうなんだ?」

紫苑「修理しろ、ていうことなんだろうね。」

セイリュウ「あの二人らしいね。」

ゲンブ「・・・・・・・はぁ。」

紫苑達は公園を出てそれぞれの帰路についた。
次へ

戻る